私は翔ちゃんのマンションへ向かっていた。
春だと言うのに夜になると少し肌寒い。
電車に乗り継ぎだんだんとマンションに近付くにつれドキドキと鼓動が早まった。
どうしよう。
どんな顔して会えばいい?
翔ちゃんの部屋の鍵は持っている。
入り口から入ると部屋までのエレベーターに乗った。
エレベーターの中でもう一度鞄から化粧ポーチを出して中から鏡を出す。
自分の顔を見て髪を直す。
エレベーターを降りてドキドキしながら部屋の前に行くとインターフォンを鳴らした。
どうしよう、どうしよう...
ドキドキが止まらない。
しばらくすると翔ちゃんが出てきた。
「久しぶり。」
「うん。」
「とりあえず入って。」
私は言われるままに部屋へと入って行った。
「お腹空いてない?」
「えっ?」
「ほら、作ったんだ。良かったら食べない?」
「翔ちゃんが...?」
翔ちゃんは少し照れた顔でキッチンに目をやる。
テーブルには綺麗に並べられた料理があった。
「どうしたの?」
「忘れちゃった?」と私の顔を見る。
そう言われて思い出した。
毎年二人でお祝いしてたっけ?
「そっか、今日...」
「うん。お祝いだけはさ、したくね。いつもはレストランだけど今日はここで。」
今日は、二人の出会った記念日。
そして、付き合い始めた記念日。
毎年「1年経ったね。」ってお祝いしていた。
私は椅子に座ると翔ちゃんはワインを出してきた。
「1杯だけね。」
そう言ってグラスにわずかに注ぐ。
「美味しい。本当にどうしたの?」
「うん、実は潤くんにちょっと手伝って貰った(笑)」
「そうなんだ。潤くんってあのシェフの?」
「うん。無理言ってね。」
「そっか...」
料理は本当に美味しくて二人は久しぶりに昔出会った時の話しや今までの話しをした。
ドキドキして緊張していた気持ちがすっかり落ち着いていた。
食事が終わる頃、翔ちゃんが少し真剣な顔をして話だした。
「あのさ...」
私はまた急にドキドキしだした。
「何?」
恐る恐る翔ちゃんの顔を見る。
「あの時のあの彼の事、好きなんだろ?」
「えっ?」
「君の思うようにしていいよ。」
「翔ちゃん...?違うよ...」
「何が違うの?」
少し低い声で私にそう問いかけた翔ちゃんの視線は私の心の中まで見透かされてる気がした。
続く