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チホは背の高い彼氏の後を歩きながら、あの男の言う事が本当なら…?
そんな事を考えていた。
『ねぇっ』
チホは後ろから彼氏に話し掛けた。
『なに?』
『本当は浮気してる?』
『はぁ?おまえまだそんな事言ってんの?』
『実はさ…私見たんだ。綺麗な女の人と歩いてたでしょ?』
『えっ?あっ、あれはさ…会社の同僚で…』
男は急にオドオドしだした。
『やっぱり本当だったんだ。』
『えっ?おまえ…カマかけたなっ』
男は半分怒ったような呆れた顔でチホを見た。
『別にっ本当の事を言っただけ。』
『…俺が誰と会ってようが勝手だろ?』
『ふ〜ん、開き直るんだ?』
『だから…あれはっ』
『もういいよ。別にそんなに好きじゃなかったし。その綺麗な女の人と仲良くねっ』
チホはそれだけ言うと今来た道を戻ろうと歩き出した。
『チホっなんでそんな事言うんだよっ…違うんだってっ』
『言い訳なんて聞きたくない。いつも仕事だって言ってたのは嘘なんでしょ?』
『あぁ、もぅっ!』
『ほら、そうやってキレる。私なんて二番目だったんでしょっ。』
『なんだよっ!こっちだってな、おまえなんてこっちから願い下げだっ』
チホは振り返ると『さよならっ!』とだけ嫌味のように言ってまた歩き出した。
なんなの?
最悪っ!
こうなったのも、あの男のせいだっ!
チホはさっきまでいた居酒屋に戻ろうと急ぎ足で歩いた。
居酒屋に着くと入り口のドアを開けさっきの帽子の男を探して店の中を見渡した。
『あっ』
チホは男を見つけると真っすぐにそこへ向かった。
帽子の男のテーブルまで行くと男が飲んでいたコップを取り上げた。
『ちょっと、なにす…』
チホはグラスに入っていたお酒を男に頭からかけた。
『あんたのせいで…』
チホの目からは涙がポロポロと落ちていた。
『なんで泣いてんの?』
男は慌ててポケットからハンカチを出すとチホの涙を拭いた。
チホはその男がアイドルの松本潤だとすでに気付いていた。
『最低…なんでアイドルなんかに』
店の客がざわつき始めたのを見て潤は席を立った。
『とにかく外出よ。』
潤は一緒に飲んでいたもう一人の男に、ちょっとごめんと謝るとチホを連れて外に出た。
居酒屋の外に出ると『ごめん、もしかしてあの彼氏となんかあった?』とチホに問い掛けてきた。
『なんかあった?なんて悠長に聞かないでよっ』
『ごめんね。俺、君の事一目惚れみたいでさ。なんかつい酔った勢いもあって…。』
潤は左手で首を触りながら下を向いていた。
そしてチホをたまにちらっと見たりしていた。
『そんな事信じると思う?彼本当に浮気してたの。もう別れてきたんだから。』
チホは話しながらも涙が止まらなかった。
『そっか。でも俺本当に見たんだ。彼が女と歩いてる所。それは本当。』
『それは?』
チホは潤を見た。
『あっ、もちろん一目惚れも本当。』
『嘘っそんなわけない。』
『本当なんだ。ねっ?一緒に飲まない?』
『思った通り軟派な人なんだね。』
チホは嫌味っぽく言った。
『思った通りって?』
『違うの?』
『まぁたまに言われるかな』
潤は苦笑いした。
チホも笑ってしまった。
潤の強引さに負けてチホは潤と居酒屋に戻って飲み直した。
それから潤と私は時々会って食事したり飲みに行ったりするようになった。
何度も会ってるうちにいつの間にか、お互い大切な相手になっていた。
これが私と潤の出会い。
続く