5
俺は動揺していた。
やっぱり、潤くんは気付いていた。
机に向かって仕事の原稿を読んでいても頭に入ってこない。
シャワーでも浴びようか。
そんな事を思っていると、インターホンが鳴る。
こんなに朝早く、誰?
ハッキリ言って今は出たくない。
頭が重い。
俺はシャワーを浴びようとタオルを持ちに寝室に行った。
再びインターホンが鳴る。
仕方なくモニターを見るとあかりが立っているのが見えた。
俺は慌ててドアを開けた。
「どうした?こんなに朝早くから。」
「うん。」
あかりは泣いたのか目が赤かった。
「とにかく入って、寒かったでしょ?」
あかりはリビングに行きいつものようにソファーに座った。
「 今、温かいもの入れるから。」
俺はキッチンに行き彼女の好きなミルクティーを入れてあげた。
「はい。暖まるよ。」
マグカップを渡しながらあかりの隣に座った。
「潤と…」
それだけ言うと下を向いたまま黙ってしまった。
「またケンカしたの?」
「ごめん…分かってるの。来ちゃいけないって。」
「だったらなんで来たの?」
「返しに来た。」あかりはマグカップをソファーの前のテーブルに置くとポケットから鍵を出して俺の手に握らせた。
「えっ?」
手の中に合鍵があった。
「潤にも言われたの。返して来いって。」
あかりが俺をジッと見つめる。
俺も彼女を見つめていた。
「どうして?持っててよ。」
「でも…」
俺は合鍵をあかりの手の中に戻した。
「いいじゃん。何かあったら頼ってよ。」
「でも…ダメだよ。」
「ごめん、ダメだよな…。」
「うん。」
しばらく沈黙が続いたあと、
「私、潤くんが好きなの。」
あかりはそう言った。
「うん…知ってるよ、だって彼女でしょ。今更そんな…」
「…だから、やっぱり鍵は返す。」
あかりは、握っていた合鍵をテーブルの上に置いた。
俺は何だか急に悲しくなり、胸が締め付けられた。
鍵を返してもらったらあかりとの繋がりもなくなってしまう。
そんな気がした。
「鍵ぐらい…持ってたって…」
「ダメなの。」
俺はあかりを一瞬抱きしめようとした。
けど、出来なかった。
「わかった。」
俺はそう言うしかなかった。
「ミルクティーありがとう。でも冷めちゃった。」
「うん…」
「翔くん?」
「なんで翔くんが泣いてるの?」
「バカ、泣いてねーし。」
俺は急いで立ち上がって目を擦った。
「でも…」
「いいから、帰れよ。用は済んだでしょ。」俺はあかりに背中を向けたまま言った。
「ごめんね。」
あかりは、そう言うと玄関へと歩いて行こうとした。
俺はもう二度とあかりに会えないような気がして胸が苦しかった。
立ち去って行くあかりの腕を思わず掴んだ。
続く