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腕を掴まれたあかりが振り向いた。
「もうちょっとだけ…」
「翔くん?」
「まだ、朝早いし寒いから、もう少し…」
彼女の綺麗な瞳が戸惑ったように揺れていた。
その揺れた綺麗な瞳で俺を真っ直ぐに見つめてあかりは言った。
「翔くん、私これからまた、潤くんの所へ行くの。潤くん、熱があって、だから、、」
「熱!?」
「そう、風邪みたいで。だから。。」
俺は掴んでいた腕を離した。
「帰るね。」
俺は何も言えなかった。
好きだと言う言葉も胸の奥に飲みこんだ。
言えない…。
好きなのに、好きだって言えない。
あかりをこの腕に胸に感じていたい。
こんなにも好きだったんだ。
改めて自分の気持ちの深さを知る。
玄関で靴を履き、じゃあねと言うあかりの腕を俺はもう一度掴んだ。
そして、自分の胸にギュッと抱きしめた。
もう、我慢出来なかった。こんなに好きなのに。
「翔くん?」
「しばらくこのままでいて。」
「翔くん、どうしたの?今日はちょっと変だよ?」
「行かないで欲しい。」
「翔くん、何言ってるの?離して。」
あかりは俺の腕を振りほどこうとして俺を突き離した。
「今日の翔くん、おかしいよ。」
「ごめん…でも…」
「でも?」
「好きだから。」
俺は気持ちを押さえきれずについに、好きだと口にしてしまった。
「好きなんだ。」
「何言ってるの?自分が言ってる事分かってるの?!」
「いつの間にか好きだったんだ。ずっと君を見てきたんだ。なんで、潤くんなんかと…。」
あかりは泣いていた。
綺麗な瞳から涙がポロリと落ちた。
「バカじゃないの?今更何言ってるの?」
「今更って…」
「私はね、大学の時から翔くんが好きだった。だけど、翔くんは私を妹としか見てくれなかった。覚えてる?私がバレンタインにあげたチョコだって、どうせ義理だろって、、」
「ごめん。あの時はまだ、、」
「だから!だから、私は私を大事に思ってくれてる潤くんと付き合う事にしたの。」
俺は何も言えなかった。
「なのに、今更好きだなんて。もう遅いよ。。」
あかりは、俺の前から静かに立ち去った。
あかりが昔、俺を好きだったなんて。
気付かなかった。
バカだ。
俺、何やってるんだろう。
どうして今更…
彼女の言う通りだ、
今更だ。
潤くんの大事な人を俺が奪う事は出来ない。
続く