ふと我に返って、慌ててルカの方を見た。
ルカに見透かされたかもしれない。
ルカの存在をすっかり忘れるほど、大樹しか見えてなかった。
ルカは妬いたかもしれない。
と、ルカを見ると、ルカはまだ大樹を見つめていた。
「ねえ」
桃花が何度声をかけても気がつかないほど、ずっと大樹の背中を見つめていた。
「えっ?」
そう言って、ルカがこっちを向いて、「あっ、ごめん、桃花のことすっかり忘れてた」と謝った。
桃花以上にルカも大樹に見とれていたのだ。
で、それからルカは堰を切ったように大樹に関する質問を浴びせてきた。
「昔、大樹とバンド組んでたの?」
「うん」
「それって、すごくない」
「えっ、どうして解散したの?」
禁句を平気で口にする。
それはやつが森ガールに恋したからだ。
さすがにそれは口にできない。
「音楽性の違いかな」
「えっ、桃花って好きな曲って、大樹と合わないかな?」
そうだ、リアル森ガールなら、きっと大樹の今の路線と合うだろう。
でも大樹だって、自分の好きな曲を歌ってるわけじゃない。
あいつだって、ヘビメタやろうだったんだから。
猫かぶってる、オカマやろうだ。
でもそんなオカマやろうに心奪われてる私が、大樹の批判なんてできるわけないよ。
それに大樹のこと、好きなんだから、本当なら大樹の好きなものなら何だって好きになれるはずなのに。
そうだ、大樹と私の間に立ち塞がる森ガール。
あいつが悪いんだ。
全部あいつのせいだ。
大樹と音楽の趣味だって合うのに、大樹と付き合ってたら、自分が自分でいられたはずなのに。
「だから桃花ってうまいんだ」
カラオケ行ったんだっけ……。
本当は違う曲歌いたいのに、アイコなんかかなりブッてる感じだ。
大樹がいたら大笑いしそうだ。
「ボーカルだったの」
「そう」
「だったらツインボーカルだね」
違う、私がメインボーカルで、大樹はたまにハモるくらいだ。
大樹、大樹ってうるさいよ。
リスペクトしてるんじゃないよ。
自分の立場、分かってるの?
ルカは大樹から私を奪わなきゃいけないんだからね。
じゃないと、気持ちが大樹に向かうじゃない。
大樹よりかっこいいとこ見せてよね。
じゃないと……。
じゃないと……、浮気してしまうかも……。
もちろん、大樹次第だけど……。