「今日もかっこよかったわよ」
ライブハウスの店長が誉めてくれた。
店長さんはオカマ店長だ。
源氏名だろうが、みんな、店長のことを若菜ちゃんと呼んでいる。
見るからにおっさん顔なのに、女装してる。
東京に来て一番のカルチャーショックだった。
少し売れてはきたが、今も下北沢のこのライブハウスが一番の活動拠点になっている。
若菜ちゃんはライブのあとに、たまに奢ってくれる。
酔うと急に男に戻る。
それが本当のオカマなのかと感じることがある。
それだけじゃない。
実は過去に結婚していて、なんと娘がいると言うのだ。
酔っ払うと、店長は桃花を見ては、「ちょうど娘と同い年くらいだね、桃花ちゃんは」と泣き出す。
離婚の原因は予想通り、女として生きたいからだそうだが、この顔でどういうシチュエーションで離婚を切り出したんだろうと思う。
奥さんもさぞビックリしただろう。
聞くところによると、オカマになる前は警察官だったらしい。
体格がいいのはそのせいだろうか。
最後は警視だったそうだから、いわゆるキャリア組だったようだ。
それを蹴って、オカマを選ぶなんて……。
まるでヘビメタを捨てて森ガールをしてる私と同じじゃないか。
そう思うと、急に親近感がわき、それ以来違う意味で仲良くしている。
最初は気持ち悪かったが、今は応援したいと思ってる。
「ねえ、若菜ちゃん、娘さんに会いたくないの?」
「会いたいに決まってるだろ」
酔っ払ってるから、ただのおっさんだ。
「ねえ、どこに住んでるの?」
「知らないよ、教えてくれないから」
裁判所命令で、会うことも禁止されているらしい。
だからどこに住んでるかも知らないという。
「若菜ちゃん、名前なんだっけ?」
「本名のこと」
「そう」
「中山健次郎」
「健次郎か」
「嫌だー、男みたいな名前」
自分の名前でしょ。
「気持ち悪い」
まったくオカマってどうしてこんな感じなんだろう。
鏡を見なさいよ。
おっさんじゃないの。
化粧してるから、さらに不気味になってるし。