タイトル「森ガールと盛りあガール」 115 | 可愛い君に愛を囁きたい

「今日もかっこよかったわよ」

ライブハウスの店長が誉めてくれた。

 店長さんはオカマ店長だ。

 源氏名だろうが、みんな、店長のことを若菜ちゃんと呼んでいる。

 見るからにおっさん顔なのに、女装してる。

 東京に来て一番のカルチャーショックだった。

 少し売れてはきたが、今も下北沢のこのライブハウスが一番の活動拠点になっている。

 若菜ちゃんはライブのあとに、たまに奢ってくれる。

 酔うと急に男に戻る。

 それが本当のオカマなのかと感じることがある。

 それだけじゃない。

 実は過去に結婚していて、なんと娘がいると言うのだ。

 酔っ払うと、店長は桃花を見ては、「ちょうど娘と同い年くらいだね、桃花ちゃんは」と泣き出す。

 離婚の原因は予想通り、女として生きたいからだそうだが、この顔でどういうシチュエーションで離婚を切り出したんだろうと思う。

 奥さんもさぞビックリしただろう。

 聞くところによると、オカマになる前は警察官だったらしい。

 体格がいいのはそのせいだろうか。

 最後は警視だったそうだから、いわゆるキャリア組だったようだ。

 それを蹴って、オカマを選ぶなんて……。

 まるでヘビメタを捨てて森ガールをしてる私と同じじゃないか。

 そう思うと、急に親近感がわき、それ以来違う意味で仲良くしている。

 最初は気持ち悪かったが、今は応援したいと思ってる。

「ねえ、若菜ちゃん、娘さんに会いたくないの?」

「会いたいに決まってるだろ」

 酔っ払ってるから、ただのおっさんだ。

「ねえ、どこに住んでるの?」

「知らないよ、教えてくれないから」

 裁判所命令で、会うことも禁止されているらしい。

 だからどこに住んでるかも知らないという。

「若菜ちゃん、名前なんだっけ?」

「本名のこと」

「そう」

「中山健次郎」

「健次郎か」

「嫌だー、男みたいな名前」

 自分の名前でしょ。

「気持ち悪い」

 まったくオカマってどうしてこんな感じなんだろう。

 鏡を見なさいよ。

 おっさんじゃないの。

 化粧してるから、さらに不気味になってるし。