鶴屋南北原作『東海道四谷怪談』に材をとり、「幕末残酷物語」の加藤泰が自らの脚本を監督した1961年製作の怪談映画です。
貧乏と堕落のどん底に喘ぎながら、御家人・民谷伊右衛門はいまだ仕官の夢を捨てきれない。妻のお岩も無頼な伊右衛門に愛想をつかし父・左門に連れ去られる。たまる借金にお岩の妹お袖をあんま宅悦のもとに奉公に出す。女郎屋をやっている宅悦は嫌がるお袖をむりやり店に出す。お袖の美貌に目をつけていた伊右衛門のバクチ仲間である直助は、博奕仲間の薬売りの直助とともに、四谷左門を斬殺し、お岩姉妹を引き取ることになり…
決定版とも言える中川信夫監督の「東海道四谷怪談」の2年後に製作された加藤泰監督によるモノクロ版「四谷怪談」です。
お岩さんの妹お袖のエピソードが前半しっかり描かれているのが独特な気がします。
あとはギラギラした悪辣な男たちのドラマがこれでもかと描かれていて、怪談としてより、人間ドラマが濃厚です。
後半30分くらいでお岩さんがとんでもない姿になりますが、みんなにハメられたお岩さんには同情しかなく怖さを感じなかったりします。
若山富三郎の伊右衛門もただの悪漢ではなく、深みがあります。
それでも最後の怨霊たちに狂わされる伊右衛門の場面はしっかりホラーでした。
そのあとにお袖が仇討ちにくる展開がなかなか見事な〆です。
90分くらいの上映時間の中でよくぞここまで描けたなと思う濃密な四谷怪談でした。