2018年春~夏 展覧会・演奏会まとめ | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

本ブログは美術や音楽の記事がメインで、行った展覧会や演奏会の覚書や感想を残しておくことが主要な目的であったりするわけですが、最近は他の記事の比率が増えており、覚書を残していないというケースが増えてきております。
ということで、大急ぎで振り返る記事。
2018年4月から7月までに訪れた展覧会・演奏会について、圧縮してメモ書きを残しておこうと思います。

 

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・池大雅 天衣無縫の旅の画家  (京都国立博物館)

鑑賞日:2018年4月21日

京都国立博物館で開催される近世の絵師の特集に外れなし。
本展も非常に素晴らしい展覧会でした。

池大雅は近世の文人画。

本展では大雅の幅の広い画風を楽しむことができました。
文人画は画と書が一体になった作品が多いですが、大雅は画風・書体ともにとにかく作風の幅が広い。
大胆なものと繊細なものが同居。
時代に寄らず作画傾向はバラバラですが、初期は線は細くやや細密で丁寧、後期は線がゆらぐ感じで柔らかな表現に変化、という大きな流れがあるようにも思います。
書道については自分は詳しくありませんが、パッと見ただけで様々な書体で書いてあることが分かります。
現代に例えるなら、原稿のタイプに応じてフォントを変える、というようなイメージでしょうか。
指墨画(指で描く)の作品もあり。
指の腹、指先、爪、指の様々な部分を使うことによる線の表現の多様性。
全体(画面構成)と細部(線の個性)それぞれを楽しむことができます。

風景画。
文人画は粉本を元に中国の風景を描くことが多いですが、大雅は実際に日本国内を旅し、国内の風景をたくさん描いている(現実の写生)点が面白いです。
京都清水寺や箕面の滝などの畿内の名所に始まり、東は松島から、西は玄界灘まで、様々な風景が登場。
宮島、那智、東尋坊、三保松原など、自分が行ったことのある場所があると嬉しくなります。


・シャルル・リシャール=アムラン オール・ショパンプログラム

   (ザ・シンフォニーホール)

鑑賞日:2018年5月12日

久しぶりに鑑賞したオールショパンのピアノの演奏会。
実は自分はこの演奏会、マルカンドレ・アムランと勘違いしてチケットを購入し、会場に入ってから別人であることに気付くというマヌケなことになってしまいました。
シャルル・リシャール・アムランは2015年ショパンコンクールの入賞者とのこと。
前半は遺作ノクターン、即興曲4曲、革命のエチュード、英雄ポロネーズ。
後半がバラード4曲。
前半よりは後半の方が音色が綺麗で、とくにバラード3番が4番が良かったように思います。
ピアノ独奏の演奏会をあれこれ鑑賞していると、ときどき音が会場に溶け込んでぴったりマッチするような、素晴らしい音色になることがあります。
ピアニストの状態がよくなるのか、こちらの耳が慣れるのか、詳細は判別できませんが、今回もそれが発動。
後半になるほど感動的に鑑賞しました。


・鈴木春信 ボストン美術館浮世絵名品展  (あべのハルカス美術館)

鑑賞日:2018年5月19日

鈴木春信の作品がずらりと並ぶ大規模な回顧展。
春信は18世紀後半の江戸の浮世絵師で、錦絵の手法を完成させた人。
活躍したのはほぼ1760年代の10年間で、1770年に亡くなっています。

初期作品はピンク・緑・黄の3色のみですが、徐々にカラーリングのバリエーションが増え、色合いが綺麗に。
古典趣味的、教養主義的、甘美的、夢幻的、様式的な作風で、どの作品も構図が重視されます。
春信と同時代のフランスはロココと風俗画の時代。
春信もロココ的甘美さを感じさせつつ、当時の風俗の様子も確認できるという、不思議と同時代のフランス美術の特徴と共通する要素があります。
1760年代の江戸ではネズミを飼うことが流行り、ネズミを描いた絵が多いなど、時代考証の資料としての価値もあり。
「見立て」表現は、いろんな題材を美女化する現在の漫画表現の元祖?
春画(春信の重要なジャンル)の展示は、残念ながらなし(「真似ゑもん」の導入部のみ)。



・視覚芸術百態:19のテーマによる196の作品  (国立国際美術館)

鑑賞日:2018年6月2日

国立国際美術館の所蔵作品をずらりと並べた特集展示。
年代別やジャンル別に作品を展示するのではなく、「偶然」「反復」「流用」など、19のキーワードごとに作品を分類し、19のブースに分けて作品を展示するという試みでした。
ポストモダン以降の年代別展示の困難さ、美術館の役割の変化と模索が感じられる興味深い展示でした。
先日鑑賞した東京都写真美術館のコレクション展でも感じたこと、どこの美術館もコレクションをどう見せるかについて、あれこれと苦心されているのだと思います。

作品をどう並べるかというキュレーションに関連して、解説に記載されていた認知科学上の分かりやすい例。
「アメリカ、中国、北朝鮮」
日本に一番近いのは?、と問われると多くの人はアメリカを選ぶ。
「アメリカ、中国、カナダ」
日本に一番近いのは?、と問われると多くの人は中国を選ぶ。
ことほど左様に、何をチョイスしどう並べるかによって、並べられたものの印象は大きく変わります。
例えば、本展では高松次郎がたくさん展示されていましたが、キーワードごとに他の作家と比較することにより、それぞれ高松作品の印象が変わるのが面白かったです。


・トゥーランドット イタリア・バーリ歌劇場  (フェスティバルホール)

鑑賞日:2018年7月1日

オペラは音楽の力で物語に説得力を持たせるジャンルで、物語上の多少のプロットの違和感は気にならなくなるものですが、「トゥーランドット」の物語上の違和感はかなりのもの。
カラフの心理:なぜトゥーランドットを求めるのか。
リューの心理:なぜカラフのために死ぬのか。
トゥーランドットの発する問いと、正解とされる答えとの整合性の違和。
カラフが自分の名前を答えさせることの無意味さと唐突さ。
終盤にリューだけが問い詰められ、ティムールがなぜ問い詰められないのか。
さらには、東洋の残虐性をことさら強調するオリエンタリズム。
しかし、プッチーニの音楽はこれらのデタラメさを帳消しにし忘れさせる素晴らしさに溢れます。
これこそ論理より感覚、近代以前のデタラメな神話・寓話の再現、20世紀最後の有名ロマン主義オペラの辿り着いた極致、と言いたくなるようなオペラ。
などと考えながら、プッチーニ最晩年のオペラを楽しく鑑賞。

簡素ながらエキストラの量で壮大さを演出する舞台。
兵馬俑や雑技団が登場する演出。
東洋風音楽の心地よさ、イタリア風と東洋風が重なる音の快楽。
この日はリューの死で終わる初演版(?)でしたが、個人的には補筆部も含めて最後まで演奏してほしかったかも。


・魔弾の射手 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2018

   (兵庫県立芸術文化センター)

鑑賞日:2018年7月21日

毎年夏に公開される佐渡オペラの帯公演。
こちらは19世紀の初期ロマン派ドイツオペラです。
ドイツの森の怪奇の世界と、近代的な勧善懲悪が同居するオペラ。
ホラーでありながら最後は大団円。
自分は舞台で鑑賞するのは初めてです。

1幕の序奏、三十年戦争に関する解説文がプロジェクターで舞台上に表示されます。
2幕後半でもザミエルの巨大な顔面がプロジェクターで舞台上に映し出されます。
先日のベルリン・コーミッシェ・オーパーの「魔笛」の記事でも書きましたが、もはやプロジェクションマッピングの技術は、オペラ演出の常套手法であるようです。
2幕後半の恐怖演出が見どころ、炎と煙が渦巻く中、7発の弾丸をゲットするたびに、7人の魔物(?)が舞台上に登場し、恐怖感を煽ります。
全体的に「魔弾の射手」は合唱パートが重要であることに改めて気付かされます。
ドイツ初期ロマン派の世界観を楽しく鑑賞。


・プーシキン美術館展 旅するフランス風景画  (国立国際美術館)

鑑賞日:2018年7月28日

ロシアのプーシキン美術館が所蔵するフランスの画家による風景画の数々、17世紀~20世紀まで、幅広い作品が展示されていました。

17世紀はフランス古典主義の時代、現実の風景をそのまま描くのではなく、理想化された風景が描かれます。
18世紀はロココの時代、こちらは理想主義的というよりも、もっと華やかで快楽的な世界が描かれます。ブーシェの風景が素敵。
ジャン・バティスト・フランソワ・パテルやニコラ・ランクレの作品は、ヴァトーの影響下にあるのか、人物のポージングがヴァトーそっくりで面白い。
当時イギリスで流行したグランドツアー(イタリア観光)の影響はフランスにも波及、イタリアの遺跡を描く画家も多いです。

19世紀中盤は自然主義と写実主義の時代。
バルビゾン派が登場、コローのいくつかの作品が見どころ。
クールベが登場し、理想化された風景ではなく世界をそのまま描く手法に転換。
見たまま描くという手法は、モネらの印象派の色彩探究に繋がっていきます。
19世紀後半、モネ、ルノワール、セザンヌら有名作家が続々展示。
絵画表現が大幅に変わっていく様子が確認できます。

20世紀はその流れがさらに推し進められ、とくにピカソ、ヴラマンク、マルケらの風景が素敵です。マルケの描く橋が可愛い。
ルソーの描く風景はもはや完全に外界とは関係なく、ルソー内面の表現の表れとなっています。ルソーは面白い。
17世紀から20世紀にかけて、総じて空想→現実→空想という変化が見られます。
前者の空想は理想化された世界を現実的に表現したもの、後者の空想は絵画的理想、あるいは作家の内面の表出。
絵画史の変遷と風景画の変化を楽しめる、興味深い展示になっていました。