ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 | れぽれろのブログ

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1月27日の土曜日、京都国立近代美術館に行ってきました。
寒波到来、関東や日本海側では大雪に見舞われた寒い寒い1週間、この週はめったに雪が降らない大阪でも時々パラパラと降雪が見られました。
寒いと部屋から出たくなくなるものですが、この1週間に限っては暖房を入れた部屋の中でもやたらと寒く、美術館の中の方が暖かいもと思い、暖を取りに(笑)出かけることにしました。
京都国立近代美術館では現在ゴッホ展が開催されています。
温暖な南仏アルルを描いたゴッホの作品を見ると暖かい気分になれるかもしれない、などと考えつつ、京阪電車に乗り、淀屋橋から三条へ。
京都盆地は大阪よりさらに寒い!
雪がパラつく中、京都国立近代美術館に向かいました。

ゴッホは言わずと知れた19世紀後半の超有名画家です。
オランダ出身ですが、後年はフランスで生活し絵を描きました。
オランダ時代はミレーなどのバルビゾン派の影響下で農村の様子を自然主義風に描いていましたが、パリに出て以降は印象派の影響を受け色彩豊かな作風に変化、晩年アルルに移ってからは色彩はさらに強烈になります。
印象派に触れながらも、印象派の枠にとどまらない作品を制作したため、ゴッホはポスト印象派の画家などと言われます。
写実主義から印象主義へ、印象主義から表現主義へという美術史の流れの中で、ゴッホの作風はその後の20世紀の表現主義の作家たちに大きな影響を与えました。

本展はサブタイトルに「巡りゆく日本の夢」とある通り、ゴッホと日本の関わりに重きを置く展示になっていました。
ゴッホが日本の浮世絵などの美術作品から受けた影響が重視され、同時に20世紀初期の日本の画家に与えたゴッホの影響も確認できる、そんな展示構成になっていました。

ゴッホの作品から確認できる日本趣味(ジャポニスム)の大きさを重視、会場ではゴッホの作品のみならず、日本の浮世絵も並んで展示されており、両者が比較できる展示になっていました。(浮世絵をたくさん鑑賞できるのも本展示の魅力です。)
ゴッホの平面的な構図は日本の浮世絵の影響が大きいとの解説、溪斎英泉の花魁の絵とそれを模写したゴッホの作品が並ぶ、絵の細部にいるカエルが別の浮世絵作品からトレースされたことを指摘するなどの比較展示が続きます。
東洲斎写楽などの大首絵の影響がみられるような人物画もあります。
ゴッホはパリで日本の浮世絵や、ピエール・ロティの日本を描いた小説「お菊さん」に触れてから、日本に取り憑かれるようになり、やがて温暖な南仏アルルに移住、
ここはまるで日本のようだとアルルを気に入り、作品を制作し続けました。
しかし、ゴッホは現実の日本を訪れたことはなく、ゴッホが考える日本と現実の日本にはギャップがあること、ゴッホにとっての日本は架空のユートピアのような存在であったことが、合わせてキャプションなどで繰り返し指摘されていました。

個人的には、ゴッホの日本趣味の検討、日本の作品との比較という展示の趣旨よりも、ゴッホ作品の色彩の豊かさ、絵の具の物質性が訴えてくるような厚塗りの作品それ自体が面白く、作品そのものを展示文脈とは別に楽しく干渉しました。
色彩感覚が面白く、絵の具の質感が心地よく、何を描くかよりどう描くかが重視され(まさに表現主義)、意味より視覚的な楽しさを堪能できる、このあたりこそがゴッホの魅力であり、ゴッホ作品の一般的な楽しみ方なのだと感じます。
ゴッホの色と言えば黄色と青(会場の壁も一部黄色と青になっていました)。
黄色いベッドと青い壁を描いた有名な「寝室」をはじめ、本展では麦畑を描いた作品などの黄色がとくに印象に残りました。
緑色主体の作品も心地よく、「ポプラ林の中の二人」などは緑の草と青い木の組み合わせが楽しい。
有名な「糸杉」に似たうねうねとした木が描かれた作品も何点かあり、色彩と筆触を楽しく干渉しました。

展示の後半は、20世紀初期の日本の画家たちのゴッホからの影響がテーマとなります。
日本の画家たちの手記などと合わせて、1927年に橋本関雪らがゴッホの作品を所蔵していたガシェ医師宅を訪れた貴重な映像も展示されていました。
ゴッホの作品「医師ガシェの肖像」で有名なあのガシェが住んでいた家のようです。
橋本関雪は日本画の作家ですが、洋画以外の作家でもゴッホに関心があったこと言う点も面白いです。

本展示は、西洋美術に大きなインパクトを与えた日本美術はスゴイ、などという昨今流行りの日本スゴイ論として鑑賞されるべきではなく、同時に、誤った日本理解によるゴッホの日本感を批判的に見る、いわゆるオリエンタリズム批判的に鑑賞されるべき展示でもありません。
本展は、異なる地域同士の文化の相互干渉の避けがたさ、そしてそれゆえに文化が変質し混ざり合いながら、より豊かなものになっていく一例として捉えることが妥当な鑑賞方法だと考えます。
改めて言うまでもなく、文化は一国・一地域で独自に発展・展開するものではありません。
日本文化はシルクロードの東端にある日本が大陸の様々な文化を融合して作り上げたものであり、近代西洋文化も古代ギリシャの成果をイスラム経由で輸入する形で形成されたものです。
他文化の受容は、その文化の在り様がそのまま正しく輸入されるわけではなく、常に誤りを含みながら受容されるものです。
他文化に触れ、誤りを含みながら吸収し、その意図せざる結果として面白いものが生み出される、このことこそが文化の豊かさにつながっていくのではないか、などと考えながら本展を鑑賞しました。

常設展では、現代美術の森村泰昌さんがセルフポートレート作品のために制作した、ゴッホの作品「寝室」が原寸大に再現された部屋も展示されていました。
絵の通りに再現されたやや歪んだ寝室は何とも住みにくそう(笑)。
森村さんはゴッホの自画像に扮装する作品からスタートした方ですので、ゴッホへの思い入れは大きいのかもしれません。
その他、ゴッホの影響がみられる里見勝夫らの作品も展示されており、ご興味のある方は常設展も合わせて是非。