超絶のコンチェルト -めくるめく競演- | れぽれろのブログ

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7月15日の土曜日、いずみシンフォニエッタ大阪の第39回定期演奏会、「超絶のコンチェルト -めくるめく競演-」と題された公演を鑑賞しに、大阪城公園そばのいずみホールに行ってきました。
この日は頭痛が酷く、行くのはやめようかとも思いましたが、薬を飲んで行くことにしました。
バファリンをドーピングし、いずみホールへ。

いずみシンフォニエッタの定期演奏会は半年に1度開催され、主に現代音楽が演奏されます。
この日は協奏曲が4曲、独奏はそれぞれクラリネット、トロンボーン、オーボエ、及びバリトン独唱。
作曲家もそれぞれ韓国、日本、アメリカ、オーストリアと、様々なバリエーションが楽しめるプログラムとなっていました。
指揮者はいつもの飯森範親さんではなく、今回は下野竜也さんが登場されていました。

以下4曲の覚書など。


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・クラリネット協奏曲/尹伊桑 (韓国、1981年)

1曲目は韓国の作曲家、尹伊桑(ユン・イサン)の作品。
いきなりクライマックス、と言いたくなるような激しい曲調で、独奏楽器の音色とオケの勢いを楽しむことのできる、素敵な楽曲・演奏でした。

尹伊桑は1917年生まれ、30年代後半に来日し大阪と東京で音楽を学んだとのこと。
その後1941年(太平洋戦争開始の年)に帰国、祖国独立運動の廉により投獄を経験、戦後は渡欧し、1967年に東ベルリン事件でまたしても投獄、その後釈放されドイツに帰化、1995年に亡くなったとのことです。
なかなか波乱万丈の人生です。

作曲者の人生の苛烈さの表れか、楽曲の方も激しい曲調でした。
いきなり独奏クラリネットが高音でキーンと音を立て、オケもどーんと追随する。
激しい曲ですが暗くはなく、どことなくカラフルなイメージの曲です。
クラリネットは高音部と低音部でかなり音色が変わる楽器で、この楽器の特性を生かした楽しい曲になっていました。
全体は急-緩-急の3部構成。
中間部でバスクラリネットに持ち替えますが、バスクラでもえらい高い音を出しています。
カデンツァがまたかっこよく、高音と低音、弱音と強音が繰り返される複雑な音作りを堪能できました。
ソリスト:上田希さんの素敵な演奏とともに楽曲を堪能。
今回の4曲の中ではこの演奏が最も気に入りました。


・トロンボーン協奏曲/松本直祐樹 (日本、2017年)

続いては日本の楽曲、今年完成した曲で世界初演とのことです。
作曲者の松本直祐樹さんは元トロンボーン奏者とのことで、トロンボーン奏者によるトロンボーン協奏曲であるとのことです。
こちらは尹伊桑の曲とは打って変わって静かな曲調で、尹伊桑の暑苦しい夏を増幅するような曲とは異なり、こちらの曲はどちらかといえば涼しげです。
控えめなオケの演奏をバックに、独奏がゆるい歌を歌います。
こちらの曲の方が頭痛には優しく、まったりと鑑賞することができました。


・オーボエ協奏曲/ジョン・ウィリアムズ (アメリカ、2011年)

休憩を挟んで後半。
お薬が効いてきたのか、頭痛はかなり楽になりました。
ジョン・ウィリアムズは現代アメリカの作曲家で、映画「スター・ウォーズ」や「E.T.」の音楽の作曲者として有名なのだとか。
前衛的な前半2曲の作風と比較するとこちらはやや古典的で、独奏オーボエが奏でるメロディが非常に綺麗です。
3楽章制で聴きやすい楽曲、しかしオーボエの動きは複雑で、演奏難易度は高そうです。
独奏楽器の音とメロディをゆったりと堪能。
調べてみるとジョン・ウィリアムズは「シンドラーのリスト」や「ミュンヘン」などの映画音楽も担当されており、スピルバーグ映画の音楽との関わりが大きい作曲家のようです。


・フランケンシュタイン!!/HK・グルーバー (オーストリア、1979年)

最後は問題作です。
バリトン歌手が1人とオケが10数名。
弦管楽器が各1名とパーカッション。
各奏者の横には、何やら怪しげなおもちゃの楽器が置かれています。
楽曲は現代的な響きがし、決して明るい曲調ではないですが、どことなくコミカルな感じがします。
各奏者は随時楽器を持ち替え、おもちゃのピアニカのようなものを吹いたり、頭上で振り回すとヒュンヒュン音がするプラスティックのチューブ状の(?)のものを振り回したりと、頻繁に持ち替えが発生し、何やら忙しげ。
パーカッションも紙袋を膨らませて手で破裂させたりと、いろんなことをやっています。

そんな中、独唱歌手が英語で物語を歌っていきますが、物語は字幕を読んでも何だかよく分からず、真剣に意味を追うことは困難です。
解説によると歌詞は押韻やダジャレなどの要素に満ちており、邦訳するとあまり意味を成さないのだとか。
独唱歌手は宮本益光さんというバリトン歌手ですが、ぜんぜんバリトン風の歌い方ではなく、次々と歌い方が変化し、野太い声や高い声、会話風、シュプレッヒシュティンメ風になったり、口笛を吹いたり、何だかよく分からない奇怪な発声を延々続けたりしています。

独唱歌手の発声がやたらと楽しく、歌手メインで鑑賞してしまいますが、そうこうしている際にもオケが持ち替えし音が変わり、ふと気づくとオケが歌っていたり、今度は逆に独唱歌手がおもちゃの笛を吹いていたりと、情報量が多く、目と耳が非常に忙しいです。
独唱歌手が解読不能な奇声を発し続けた後、小声で「何いうてんねん」と呟いたり(笑)、アドリブ要素もあるようです。
世にも奇怪な問題作をたっぷりと味わうことができ、楽しめました。


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ということで、暑い前衛音楽と涼しい前衛音楽、やや古典的な音楽と超問題作と、4パターンの楽曲を素敵な演奏と共に存分に楽しむことができる演奏会でした。
いずみシンフォニエッタは面白い。
頭痛もすっかり良くなり、楽しく帰路につきました。
次の定期演奏会は来年2月、次回も楽しみです。
 

 

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<追記>

 

いずみシンフォニエッタの紹介動画がYou Tubeにありましたので、貼り付けておきます。

ご興味のある方はご覧になってみてください。