歌劇「トスカ」 パレルモ・マッシモ劇場 | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

6月25日の日曜日、プッチーニのオペラ「トスカ」を鑑賞しに、中之島のフェスティバルホールに行ってきました。
生オペラは久しぶりの鑑賞、確認してみると2年前の「ドン・ジョヴァンニ」以来。
そしてリニューアル後のフェスティバルホールでオペラを鑑賞するのも初めてです。
雨がしとしと日曜日、期待に胸を膨らませ、フェスティバルホールへ。


自分はプッチーニのオペラが好きで、「トスカ」はその中でもお気に入り度の高い作品です。
「トスカ」はヴェリズモの悲劇、ナポレオン戦争期のイタリアの惨状が、救いのない写実性をもって描かれていきます。
脱獄、拷問、自殺、強姦未遂、刺殺、銃殺、投身自殺。
主要登場人物は全員死亡、死と暴力に満ち、音楽もとくに2幕以降は不気味さが支配的です。
その分トスカとカヴァラドッシの愛の音楽の美しさが際立ち、この部分の心地よいメロディと歌唱は鑑賞者の涙を誘います。

この作品から感じられるのは、世界の非合理です。
人の愚かさが悲劇を生むという因果律が支配するわけではなく、とくに理由もなく人が死に、その死がとくに何かに繋がっていくということもない。
アンジェロッティは何の予告も物語との関わりもなく突然死に、約束に反してカヴァラドッシが実弾で撃たれることにも何の必然性もありません。
描かれるのは世界のデタラメさ。
世界のデタラメさゆえに愛が引き立ち、その愛がテーマの作品であるとも言えますが、ラストシーンでトスカが神の御前での相対を宣言する相手がカヴァラドッシではなくスカルピアであることから考えても、メインテーマは愛ではなく憎しみと非合理であるように感じれらます。

オペラは物語の条理で人を論理的に納得させるジャンルではなく、音楽の不条理で人を感覚的に納得させるジャンルです。
物語のデタラメさ故に寓意性を帯び、音楽の強度がそれを引き立たせるのがオペラの面白いところ。
この点から考えても、世界の泥沼の中で一瞬浮かび上がる愛の幸福を音楽の力で感覚的に描く「トスカ」は実にオペラらしいオペラで、個人的にお気に入りの作品なのです。


今回鑑賞したのはイタリアのパレルモ・マッシモ劇場の公演。
今般の共謀罪の設定根拠として、政府がオペラ並みのデタラメな論理で(笑)強引に引っ張り出してきたパレルモ条約で有名な、イタリアのシチリア島北西部に位置する都市パレルモの劇場です。
指揮はジャンルカ・マルティネンギという方。
演出はオーソドックスで、とくに現代的な解釈がなされているわけではなく、ストレートに音楽を楽しめる舞台になっていました。

本公演の目玉は超有名歌手アンジェラ・ゲオルギューが登場することです。
彼女が演じる主人公トスカの歌唱がとりわけ素敵で、2幕のアリアは開始数秒で思わずウルっとくるような(笑)素晴らしい歌唱でした。
カヴァラドッシを演じたマルチェッロ・ジョルダーニもドラマティックな歌唱で、2幕以降の本作の展開によくマッチしていたように思います。
フェスティバルホールの音響がよく、楽器の細部の音がよく聴こえ、演奏も含めて存分に楽しむことができました。


1幕、スカルピアの5音がどーんと鳴り響き、アンジェロッティのシンコペーションがそれに続く、この始まり方がかっこよくて、この部分でいきなり来てよかった感が漂います。
スカルピアの見せ場であるテ・デウムは生演奏で聴くとやはり迫力があり、神を称えながら同時に私欲を叫ぶ音楽にゾクゾクします。

2幕は出だしのフルートこそ可愛げがありますが、以降はやたらと不気味な音楽が続きます。
この不気味な音楽も「トスカ」の醍醐味。
拷問シーン直前の居心地の悪い讃美歌の合唱部分など、ホールの音響が不気味さを際立たせます。
2幕の音楽は上にも書いたアリア「歌に生き、恋に生き」の頂点に向かっていく構造で、ここでゲオルギューの歌唱をたっぷりと堪能。

3幕、カヴァラドッシのアリアの前のチェロが心地よく聴こえる部分が良いです。
この部分は演奏後の拍手とともにチェロパートを立たせたくなりますが、オペラのカーテンコールでは難しいですね(笑)。
クラリネット独奏からアリアへの盛り上がりも素敵です。
トスカとカヴァラドッシの愛の二重唱を堪能した後、全員死んでおしまい。
カーテンコールは拍手が長く続き、ゲオルギューは舞台傍まで来て観客と握手するファンサービス。


ということで、やはり生オペラは良いです。
プッチーニの素晴らしさをたっぷりと堪能することができました。
今年はあと2~3回生オペラを鑑賞しようかなと思っています。