歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」 (佐渡裕プロデュースオペラ2014) | れぽれろのブログ

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21日の祝日の月曜日、西宮の兵庫県立芸術文化センターに
オペラを観に行きました。
演目はモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」、
夏恒例の佐渡裕さんのプロデュースオペラの帯公演です。
佐渡さんのプロデュースオペラは今年で10周年とのこと。
自分は佐渡オペラは過去3度鑑賞しており、
今回は「蝶々夫人」「魔笛」「トスカ」に続く4度目の鑑賞になります。
今年もこのオペラは帯公演で計8回も上演され、この日は4日目の公演でした。
関西の一地方都市でこのような公演を毎年続けてくれている佐渡裕さんに
感謝です。

さらに今回の演目はモーツァルト!
過去に何度も書いていますが、自分はモーツァルトのオペラが好きです。
とくに「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」の
ダ・ポンテ三部作はすごく好きで、
オペラの登場人物からお名前(ハンドルネーム)を拝借するくらいです(笑)。

「コジ・ファン・トゥッテ」はダ・ポンテ三部作の最後の1作。
1790年に作曲されたモーツァルト晩年のオペラです。
重唱を中心としたあまりにも美しい音楽と、
なんとなくアイロニカルな脚本が魅力的な作品。
内容は2組のカップルが、それぞれ相手を入れ替えるというスワッピング・オペラ。
このオペラの内容や自分の思いについては、2年前の関西二期会の公演のときに
散々書いたので、ご興味のある方はこちらを参照ください。
ということで(能書きはほどほどにして)この日の感想及び覚え書きです。


演出。
佐渡さんのオペラは演出が面白いです。
過去の公演では・・・
「蝶々夫人」では、ハミングコーラス部分で蝶々さんが
シルエット姿のまま固まって舞台が回転、
「魔笛」では、開幕からいきなりタミーノが巨大な蛸足に襲われる(笑)、
「トスカ」では、サンタンジェロ城のミカエル像が舞台にどどーんと屹立する後で
イタリアのモノクロ映像が延々流れる・・・など
何だか面白い演出が印象的です。

しかし今回の演出は奇抜な感じはあまりなく、オーソドックスな舞台です。
ただし単にオーソドックスというわけではなく、
徹底して18世紀的な雰囲気を出そうとしている感じです。
幕、衣装、舞台装置、小道具、背景の森の中の建築物や風景、
18世紀ロココ期の画家ヴァトー、もしくはフラゴナールのような世界です。

勝手なイメージ図としてはこんな感じ。

・恋の成り行き-追跡/フラゴナール

恋の成り行き-追跡



演奏、歌唱。
モーツァルトを鑑賞していつも思うのは、結局何をやっても
モーツァルトの音楽が勝ってしまうということです。
今回もやはり音楽がいい、誰が演奏していようと誰が歌っていようと、
音楽が素敵すぎます。

佐渡さんはあまりテンポを加速させず、たっぷりと演奏していました。
最近のモーツァルトは割と古楽風にサクサク進む演奏が多い気がしますが、
この日はそんな雰囲気ではありませんでした。
全編185分(休憩のぞく)かけて、じっくりと美しく丁寧に描いていきます。
とくに独唱部など、ところどころルバートを効かせて、
じっくりテンポを落としています。これが何とも心地よい。


このオペラは重唱がメインですが、独唱部分の音楽も良いです。
個人的にこのオペラのクライマックスは2幕の中盤、
姉妹がアルバニア人男性に「陥落」していく部分。
グリエルモ&ドラベッラの二重唱から、4人それぞれの独唱を経て、
フィオルディリージ&フェルランドの二重唱に至るまでの6曲。
この6曲の音楽の雰囲気は、明-暗-明-暗-明-暗という順番、
恋に対する幸福感の音楽と、恋に対する逡巡の音楽が交互に続きます。
そして最後の二重唱は、逡巡が幸福感(暗→明)に変わっていきます。
ここだけ取り出すと、まるで交響曲を聴いているかのような構成です。

自分はすぐに涙ぐむのですが(笑)、今回もこのあたりで感極まります。
とくに2番目のフィオルディリージの独唱。
このオペラのもっとも内省的な音楽(たぶん)であり、
長い長いアリアをたっぷりと聞かせてくれます。
背後で鳴っているホルンも心地よい。
そして今回のフィオルディリージ役の小川里美さん、すごくいいです。
(どうでもいいことですが)調べてみるとこの方、
元ミスユニバースの日本代表なのだとか。


その他、人物と言えば、このオペラで忘れてはいけないのがデスピーナです。
美味しい脇役、これがいいキャラクタですね。
自分は「ドン・ジョヴァンニ」の美味しい脇役からお名前をお借りしていますが、
もし自分が女性だったなら、デスピーナの名をお借りしたいくらい。

今回のデスピーナ役は田村麻子さん、歌唱の素敵さはもちろん、
楽しい演技も見せてくれました。
2幕フィナーレの公証人への扮装、どっから声出してんねん・・・
というような歌い方(笑)、歌うのが大変そうです。


ところで、モーツァルトとのオペラ言えばエロティックな演出(笑)が
気になりますが、今回の公演に関してはそのような要素は控えめでした。
林檎にナイフを突き刺して歌うとか、そういうのはありましたが、
前回(上記のリンク先の記事)の二期会のように、
バナナを弄んだあと皮をむいて口に入れるとか(笑)、
そういうのはさすがにありませんでした(笑)。


ラストシーン。
グリエルモ&フェルランドが正体を明かした後、各カップルは元の鞘に
戻るのですが、今回の演出ではやや微妙さを残しています。
グリエルモの関心はあくまでフィオルディリージにあります。
しかしフィオルディリージは明らかにフェルランドに未練が見られます。
フェルランドもフィオルディリージに未練を感じていながら、
結局はドラベッラに向かいます。
ドラベッラはあんまり迷いがない、あんたは誰でもええんかい・・・
という感じです(笑)。
終幕の各人の身振りから察すると、ざっとこんな感じ。

パンフレットの中の演出家のコメントによると、ラストの組み合わせは
誰と誰でもよく、どのように終わらせるかについての意見はないとのこと。
18世紀アンシャン・レジーム期の貴族的な道徳からすると
あっさり元の鞘に戻るのも違和感はないのかもしれませんが、
21世紀を生きる我々からすると、「元に戻りつつも心は揺れる」というのが
脚本の流れから見ても妥当な演出なのかもしれません。

2幕のフィナーレの衣装、フィオルディリージもドラベッラも
ほぼ同じようなドレスです。
よく見るとドラベッラの方がややピンクがかっていますが、
最初は照明の関係で同じ色に見えました。
自分は4階席の1番前で見ていましたが、一瞬2人の見分けがつきませんした。
そして軍服に戻った後のグリエルモとフェルランド、これまた全く同じ服で、
歌い始めるまで見分けがつきません。
似たような服、要するにどっちでも一緒なのだという、
そういう意図があるのかも・・・などと考えました。


ということで、書くことは尽きませんがこの辺で・・・。

次回のオペラ鑑賞は、モーツァルトと同じくらい好きなプッチーニ。
年末にキエフの「トゥーランドット」を見に行く予定、楽しみです。


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<関連リンク>

気が付くとモーツァルトの記事も増えてきています。
ちょっと過去記事を整理してみます。

・モーツァルトのオペラの人物相関 → 
・コジ・ファン・トゥッテ/関西二期会 → 
・フィガロの結婚/プラハ国立劇場 → 
・フィガロの結婚/スイス・バーゼル歌劇場 → 
・魔笛/プラハ国立歌劇場 → 


過去の佐渡さんの公演もついでに・・・。

・トスカ/佐渡裕プロデュースオペラ2012 →