ドイツの美術 (20世紀後半~21世紀) | れぽれろのブログ

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ドイツ美術を並べてみるシリーズ、
前回は20世紀前半、相次ぐ体制変更や2度の世界大戦により、
時代に翻弄された画家たちの作品を並べてみました。

今回は戦後美術です。
戦後、世界の美術活動の中心はヨーロッパからアメリカへ移ります。
ポロック、ロスコらの抽象表現主義絵画など、
視覚表現の可能性を極限にまで突き詰めるような抽象作品が主流になる一方、
ウォーホル、リキテンスタインらのポップアート、
その他、パフォーマンスアート、コンセプチュアルアートなどなど、
美術が美術であることを疑うような、「美術」を批判的に捉え直すような、
様々面白い試みがなされました。

そんな中、ドイツの作家さんたちはどのような作品を制作したのか。
有名な方から無名な方まで、思いつくままに並べてみます。


・読書/リヒター (1994)

読書

ゲルハルト・リヒターは、おそらく戦後ドイツで最も有名な画家だと思います。
ドレスデン(旧東ドイツ)の生まれですが、西ドイツに移住し、
西側で活躍した作家です。
スピード感のある動的な抽象絵画(視覚的にすごく面白い)などが
有名だと思いますが、この作品のような写真をベースにした具象絵画も
描いています。
写真ベースの具象絵画といえば、スーパーリアリズム(チャック・クロースなど)が
有名ですが、リヒターの場合は、ブレ、ボケ、ノイズのようなものを画面上に
表現し、
写真/映像/絵画、それぞれを異化するような
面白い作品になっています。
この作品はそんなリヒターの具象画の中で、
(アイロニカルな意味で)最も「名画的な」雰囲気が漂っている作品だと思います。


・不思議の国のアリス/ポルケ (1971)

不思議の国のアリス

ジグマー・ポルケもリヒターと同じく西ドイツ移住組、
戦後ドイツ美術では必ず登場する有名作家さんで、
アメリカのポップアートを批判的に捉え直したような、
面白い作品を制作しています。

カラフルな画面に、「不思議の国のアリス」の芋虫の場面、
そしてバレーボール(バスケットボール?)の選手が描かれる。
一見ポップアート風のなんてことのない作品に見えますが、
この作品は既製品の布地(サッカーの絵がプリントされています)を
組み合わせた上に描かれており、レディメイドの要素もあります。
さらに布地の貼り合わせ方がなんとなくキリスト教の三連画を
おちょくったような(笑)雰囲気になっています。
小さなサッカー選手たちの上に、大きなバレー(バスケ?)選手を描く・・・
なんとなく「アリス」の身体伸縮シーンを思い出します。
そして、中央の布地の○、サッカーボールの○、バレーボールの○、
芋虫のパイプの○、大小様々な○が呼応する。
いろんな要素が犇めき合い、楽しい作品になっています。
この作品は2006年のポルケの特集展示で日本に来ていた絵です。


・カプリ・バッテリー/ボイス (1985)

カプリ・バッテリー

ヨーゼフ・ボイスは一応彫刻家のようですが、
様々なパフォーマンスアートやインスタレーションを制作された方。
この方も有名な美術家さんです。
様々なインスタレーション作品を残されていますが、
個人的に可愛くて好きなのがこのカプリ・バッテリー。
レモンに電球を指し込み、レモンの力で黄色く光ってる、
とのことなのでしょうか・・・笑。
ちなみにこのレモンは本物のレモンで、展示の会期中、一定の期間が経過すると
新しいものに交換しなければならないというボイス指示があるそうです。
なので、美術館の職員の方は一定期間ごとにスーパーでレモンを
買い求めなければなりません・・・笑。
国立国際美術館に所蔵されている作品です。


以上は旧西ドイツで活躍された作家たちです。
(リヒターは94年の作品を選びましたが、
西ドイツ時代からこの手の作品は制作されていました。)
同じ時代、共産主義体制の元で、比較的表現の規制が厳しかった(と思われる)
旧東ドイツでの作品をいくつか並べてみます。
意外と面白い作品もあります。


・ドイツ農民戦争(部分)/テュプケ (1981)

ドイツ農民戦争

ヴェルナー・テュプケは東ドイツの画家。
おそらく(少なくとも日本では)有名ではありません。
いわゆるリアリズム絵画を描かれていたようです。
細かい人物がたくさん描かれている
・・・まるでボッシュかブリューゲルの絵画です。
何というか、20世紀に描かれた作品とは思えない雰囲気があります。
西ドイツ美術作品とは対照的な感じです。
細部を観察してみたくなる作品です。

よく見ると画面下の方にこんな方々が描かれています。

ドイツ農民戦争(部分)

左側はデューラー、右側はクラーナハですね。面白いです。
他にも有名人が描かれているのかな・・・?


・Leuna1969/ジッテ (1969?)

レウーナ1969

ヴィリ・ジッテも東ドイツの画家。
この方も有名ではなく、この作品の詳細は自分もよく知らないのですが、
社会主義リアリズムのような、即物主義のような、あるいはイタリア未来派のような
雰囲気もあり、なんとも不思議な作品になっています。
この作品も細部を見てみたいですが、
日本で旧東ドイツ作品の詳細を知ることはなかなか難しいのかもしれません。


20世紀末(90年代)以降、いわゆるモダニズム芸術としての抽象表現に
限界が来たのか、純粋な抽象絵画は少なくなり、絵画は抽象/具象を
脱構築したような、新しい段階に入ります。
この時代以降のドイツの作家さんを2人並べてみます。


・星空/キーファー (1995)

星空

アンゼルム・キーファーはいわゆる新表現主義で有名な方。
抽象と具象を折衷したような作品を制作されています。
黒と黄土色の抽象画のような画面の中に、寝転ぶ人とたくさんの星が描かれる。
この作品は340×280cm、すごく大きな作品。
国立国際美術館に所蔵されている作品。
大画面で見るとなかなかよい感じです。


・Hatz/ラオホ (2002)

Rauch03

ネオ・ラオホは旧東ドイツ生まれの画家で、
社会主義リアリズムのような、シュルレアリスムのような、
レトロフューチャーっぽいような、古い時代のような、
何ともよく分からない不思議な作品をたくさん描いています。

Hatzは捜索という意味のようです。
緑の服(制服?)を着た人たちが何かを探しているのでしょうか。
ホッケーの道具ようなものを持ち、普通に空を飛んでます。
氷の中から生まれ、ある人は虫のような姿で生まれてくる・・・。
何なのか全然分かりませんが(笑)、インパクトは大きな絵ですね。
ラオホは(たぶん)有名ではありませんが、面白い作家なので
もっと紹介されてもよいと思っています。

ちなみに、最近の日本の具象絵画(特に若い方)は、描き方・色の塗り方も含め、
結構このラオホに雰囲気が似ている作品が多いように思います。
ひょっとしたら美術家の方たちの間で、ラオホ風絵画が現在の
トレンドなのかも知れません。
(あるいは、自分が知らないだけで、ラオホに影響を与えた作家さんが
別にいるのかもしれませんが。)


ということで、ドイツの美術を並べてみました。
20世紀美術といえばフランスやアメリカが中心ですが、
ドイツ美術も面白いので、個人的にはもっと特集してほしいと思っています。
旧東ドイツの美術など、展覧会が開催できれば結構反響があるのでは?
と思っています。


★次回予告
次はドイツの写真作品を並べてみたいと思っています。