フランス文学案内/渡辺一夫,鈴木力衛 | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

自分は本を読むのが好きですが、小説を読むことは少なくなりました。
小説の世界にどっぷり浸るというのは、なかなか時間と気合が必要なので、
やはり学生の時のようにたっぷりと時間があるというわけではない
社会人にとっては、小説をじっくり読むのはなかなか難しいです。
小説以外でも、複雑な論理を追いかけるような文章もなかなか読めませんね。

しかし文章を読むのは好きで、とくに叙事的・辞書的というか、
無駄に情報量が多いものを、あまり気合を入れずダラダラと
読み続けるのは好きです。
これだと電車などでの移動中や、ちょっとした空き時間でも読めます。
自分は昔から電話帳なんかでもほっとくといつまでも読んでいるような、
そんな性向があったりします(笑)。ただの活字中毒かもしれませんね。

さて、少しでも小説を読んだ気になろうということで、買ってきたのがこの本、
岩波文庫の「増補 フランス文学案内/渡部一夫,鈴木力衛 編」。
初版は1961年、増補版(20世紀後半の記述を追記)が1990年とのことで、
かなり古い本なのですが、それなりに現代でも有効かなと思い、読んでみました。
中世の文学から80年代のミシェル・フーコーあたりまで、
小説・戯曲・詩・哲学などの主要な文芸作品のエッセンスを300ページほどで
コンパクトに網羅したもので、初学者にぴったり、辞書としても使えそうです。

おおまかな流れとしては・・・
中世以降、次第に国家的に統一されて行くフランス国は、
17世紀の絶対王政期に「フランス語」が整備され、古典主義の時代を迎えます。
18世紀には、擬古典主義から啓蒙主義へと変化し、
フランス大革命を経てロマン主義の時代に。
19世紀にはロマン主義→写実主義→自然主義・印象主義→象徴主義と
変化していきます。
自分は美術史にはちょこっとだけ詳しいのですが、
この辺の動きは美術史とリンクしている感じですね。
20世紀は大戦前/戦間期/戦後と、第一次大戦・第二次大戦を
区切りにすると分かりやすいんだそうです。
それぞれの時代区分に対し、膨大な作家と作品について記述されていますが、
文章は平易ですごく読みやすいです。

さて、この本で紹介されている作品の中で自分が過去に読んだことがあるのは、
カミュ「異邦人」「ペスト」、スタンダール「赤と黒」 の3作だけでした。
戯曲では、デュマの「キーン」、ベケットの「終盤戦」は
舞台(テレビ)で見たことがありました。

少しだけ個人的な思い出を書くと、自分は高校生の時に「異邦人」を読んで、
このムルソーという主人公になぜか滅茶苦茶に感情移入してしまいました。
「ムルソーは自分だ!」←今考えると恥ずかしいですね(笑)。
ムルソーは、自然体で生き、それ故に社会から非難されるが
その非難も甘んじて受け、しかし憐みのまなざしに対しては
徹底して怒りを露わにする、そんな生き方をした人。
自分は中学~高校時代に、ちょっと色々な出来事が重なったからか、
どちらかといえば冷めた(鬱屈した?)少年時代を過ごしたのですが、
そんな少年にとって、ムルソーは共感できるキャラクターでした。
そして、ムルソーを非難するアルジェリアのエセ道徳的な社会を、
まるで現代の日本社会みたいだと感じたものでした。
逆に、「赤と黒」はなんだかつまらなくて、途中で読むのをやめてしまいました。
当時の自分には難しかったのかもしれませんね。

デュマの「キーン」、ベケットの「終盤戦」(「勝負の終わり」「エンドゲーム」とも)は
NHK教育の「芸術劇場」で放送されていた舞台で見ました。
とくにベケットはすごく面白かったのを覚えています。
機会があればまたカミュやベケットについても書いてみようかなと思います。

そして、この本を読んでみて、「読んでみたいな」と感じた作品を
覚え書き代わりに以下に列挙。

・モンテーニュ「エセー」
・バルザック「人間喜劇」の諸作品
・ゾラ「ルーゴン・マッカール叢書」の諸作品
・モーパッサンの短編
・リラダン「残酷物語」
・プルースト「失われた時を求めて」
・ブランショ「謎のひとトマ」「アミナダブ」
・ヴィアン「日々の泡」「北京の秋」「心臓抜き」
・ベケット「モロイ」「マロウンは死ぬ」「名付けえぬもの」
・ロブ=グリエ「消しゴム」「嫉妬」「迷路のなかで」

何だか心を病みそうな作品ばかりですが(笑)・・・読む時は来るのかな?

もうひとつ、自分は音楽・オペラが好きなのですが、
フランス文学の中に音楽の題材になったものがたくさん出てきたので、
すごく個人的なメモですが、これも列挙しておきます。

・モリエール「ドン・ジュアン」
 →モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」、R・シュトラウス「ドン・ファン」の元かな?
・モリエール「町人貴族」 →R・シュトラウスの組曲
・アベ・プレヴォー「マノン・レスコー」 →プッチーニのオペラ
・ボーマルシェ「セビリアの理髪師」「フィガロの結婚」
 →それぞれ、ロッシーニ、モーツァルトのオペラ
・ユゴー「エルナニ」 →ヴェルディのオペラ
・ベルトラン「夜のガスパール」 →ラヴェルのピアノ曲
・メリメ「カルメン」 →ビゼーのオペラ
・ミュルジェール「放浪芸術家の生活情景」
 →プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の元
・メーテルリンク「ペレアスとメリザンド」
 →フォーレの劇音楽、ドビュッシーのオペラ
・アナトール・フランス「タイス」 →マスネのオペラ(瞑想曲が有名)

あと、ジョルジュ・サンドですが、「ショパンの恋人」という知識しか
なかったのですが、フランス文学史の中では割と重要な人みたいで、
作品もたくさんあるようですね。
全然知りませんでした・・・。