信頼される日本人として。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【土・日曜日に書く】論説委員・別府育郎。



「北の鉄人」新日鉄釜石がラグビーの日本選手権で7連覇を誇ったころ、釜石の町を何度か訪れたことがある。

 地元東北の工業高校出身者で固めたFW陣は素朴で力強く、大学出のスター選手を交えたバックス陣は、自由で華麗だった。

 ◆みそ焼きにぎり

 釜石は鉄の町であるとともに漁業の町でもあった。朝市のおばさんはやさしく、駅前で売られていた、みそを塗った焼きおにぎりの味が忘れられない。

 市内のパブで行われた、引退する天才スタンドオフ、松尾雄治を囲む身内のパーティーに入れてもらったこともある。冬の釜石は寒かったが、人々は温かかった。

 その町が、ほぼ壊滅した。

 「北の鉄人」を引き継ぐクラブチーム、「釜石シーウェイブス」ともなかなか連絡が取れなかった。安否が気遣われたコーチ、選手ら関係者のほとんどは高台のグラウンドにおり、全員が被災を免れたという。

 日本ラグビー協会に「無事」を伝えたのは、高橋善幸ゼネラルマネジャー(GM)だった。

 彼が明治大学4年で志望の広告代理店に進むか、恩師の北島忠治監督が勧める新日鉄釜石でラグビーを続けるか迷っていたころ、一緒に焼き肉を食べに行った。悩んでいるにしては旺盛な食欲で、半ばあきれてハシの運びをながめていた記憶がある。

 選手らが無事だったとはいえ、友人知人の多くの安否を案じていることだろう。町の復興には気の遠くなるような時間と労力を要する。町の象徴でもあった高橋GMらラガーメンが、そのリーダーシップの一翼を担うだろう。阪神大震災時の神戸製鋼ラグビー部と被災者の交流を思いだす。

 ◆「君のためだ」

 世界のスポーツ界は、大震災、津波によるすさまじい被害に、敏感な反応をみせた。

 ラグビーの6カ国対抗でイタリア代表チームは「日本のために」と黙祷(もくとう)を行い、フランス戦に臨んだ。テニスのノバク・ジョコビッチは、ひざのバンデージに「サポート・トゥー・ジャパン」と書き込んだ。

 大リーグでは、松井秀喜のアスレチックスが、イチローのマリナーズとの開幕戦で義援金を募る。セリグ・コミッショナーは「日本は100年以上野球への愛情を分かち合ってきた特別な存在だ。日本のためにできることをすべて行う」と声明を出した。

 サッカー界では、アーセナル、リバプール、ACミランなど多くのクラブや、ベッカム、カカらスター選手が被災者を励ますコメントを出した。

 インテル・ミラノのエース、カメルーン人のエトーは、ブレシャ戦で先制点を挙げると、長友佑都に駆け寄り、「君のためだ」と叫んで抱きしめた。喪章は、両チームの選手の腕に巻かれていた。

 インテルのメッセージには、こうあった。「日本人の勇気、団結力は素晴らしいものだ。日本人が、その力強さ、その大いなる知恵で、この困難を乗り切ることを信じている」

 ◆TOMODACHI

 日本は、日本人は信頼されている。そう思わせてくれることがありがたかった。

 インテルだけではない。海外各紙の論評も地震直後の日本人の行動を称賛した。

 「大自然からの打撃に遭っても生き延びるための備えを、日本人がどれほどきちんとしているか指摘せずにいられない」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)

 「日本には最も困難な試練に立ち向かうことを可能にする人間の連帯が今も存在している」(ロシアのタス通信)

 「日本人は秩序を守り、他人を助けることが自分を助けることになると知っている」(韓国の聯合ニュース)

 「日本は大戦の荒廃から見事に復興した。また新たな奇跡を起こしてくれるだろう」(パキスタンのネーション紙)

 衝撃的な惨状への同情が交じっているかもしれない。ほとんどは福島原発が深刻な状況に陥る前の論評ではあった。

 それでも日本人、とりわけ東北の人の美質に対する賛辞であったことに変わりはない。多くの避難所では、被災者の中からリーダーが生まれ、煮炊きなどの役割分担が進み、秩序が保たれている。

 今後、さらに厳しい局面も待っているだろう。だが、日本人は世界に信頼され、賛辞に見合う民族であり続けたい。その上でこの際、各国が寄せてくれる好意には甘えよう。

 米国防総省によると、東日本大震災に対する米軍の支援作戦の名称は「TOMODACHI(ともだち)」というのだという。(べっぷ いくろう)