■大人だから楽しんで読める、大人だから読んでほしい様々なジャンルの『大人本セレクト』をレビュー!
VOL・055
大人だからこそ読んでほしい、Arikaの「再読文庫」3冊(2015年11月始日)
地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)/講談社
¥751
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死に直面した生活の中のユーモア。
著者、一ノ瀬泰造氏は戦場カメラマン。1973年にカンボジアで消息を絶ち、82年になってようやく死亡が確認されました。本書は死の直前までつづられた日記と写真をまとめたものです。文字通り死と隣り合わせの戦場にいながら、彼の書く文章はユーモアに満ちていて、憎めない人柄がにじみ出ています。「アンコールワットを撮れば死んでもいい」と言う残したそうですが、実際に行けたかどうかは今もって不明なんですね。文章もさることながら、彼の伝えたかったことは写真が雄弁に語っているし、言葉で説明できない魅力に満ちあふれた作品だといえるでしょう。
言葉のチカラ (集英社文庫)/香山 リカ
¥535
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自分が選んだ言葉で話したい人へ
ツイッターで気楽につぶやく現代にあって、言葉の持つ力を再考してみたいと思っている人もいるのではないでしょうか。著者がいろんな人と向き合って話す中で気がついたことをつづっているのですが、本書にはなるほどと思う部分がたくさんあるんです。例えば助詞の使い方。人に何かを聞かれたとき、「それでいいです」というのと、「それがいいです」というのとでは印象が違いますよね。何気なく使った言葉を相手に聞き流せないなんてことも多いと思います。個人的にもいい言葉を交わし合うことによって、前向きな社会を作ることができるような気がします。
繋がれた明日 (新潮文庫)/新潮社
¥802
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重いテーマ、しかしとてつもなく清々しい。
主人公は殺人を犯してしかった少年。仮保釈で社会に戻ったところから物語がスタートします。罪は償ったはずなのに彼はひどい中傷を受け、さまざまな妨害を受けることになります。出所後も罪を悔い、常に申し訳ないという気持ちを抱いている主人公には、犯罪とは無縁の人でも共感する部分が多いのではないでしょうか。犯罪そのものに対しても深く考えるきっかけになりますし、人として成長していく主人公の力強さに得るものも多いでしょう。物語は重いけれど、読後に広がる清々しさは特筆すべきものだと思います。読みやすくおすすめしやすい作品です。