永遠の翼 Ⅲ 1月ー1 | 空中楼閣

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Pieasure ~新年の誓い~




帰国してからずっと忙しく働いていた蓮とキョーコだったが、社長の好意で大晦日から2日まで一緒にオフになっていた。

キョーコは蓮に手伝ってもらいながら、出来ずにいた両方の部屋の大掃除を済ませた後おせち料理を作り始めた。


「キョーコ、無理しなくてもいいだよ?」
「平気ですよ~。明日、明後日はお休みですもの。それに仕込みは昨日からしていたから」


休む間もなく、キッチンに立ったキョーコにシャワーを浴びて来た蓮が声を掛けたが、キョーコは笑顔で首を振り、最後の仕上げに取り掛かっていた。


「あ、久遠さん。玄関先に注連縄を飾って貰えますか?このマンションには似合わないかもしれないけど・・・気分だけでも」
「クス。これだね?分かったよ。どこに飾ればいいの?」
「ドアの上の方にお願いします」
「了解」


蓮が玄関ドアに注連縄を飾り付けて戻って来るとキョーコは小さめのお重におせちを詰めていた。


「もう少しで出来ますよ」
「うん、すごく綺麗だね」
「ふふ、おせちには全部理由があるんですよ」
「そうなの?」
「はい、例えば・・・この黒豆はまめに元気で暮らすとか、数の子は子孫繁栄とか」
「へぇ~、面白いね」


おせちを詰めるキョーコの手元を興味深げに見ていた蓮に、おせちの由来について語ると蓮は感心したように再びお重の中を見詰める蓮に、キョーコは笑ってしまった。




「久遠さん、年越しそばが出来ましたよ」
「ありがとう」
「少なめにしましたから、ちゃんと食べて下さいね?」
「もちろんだよ。・・・そういえば、このおそばにも意味があるの?」


キョーコが持って来た蕎麦を受け取り、蓮はふと昼間の事を思い出してキョーコに聞いてみた。


「そうですよ。蕎麦は細く長い事から、健康長寿の祈りが込められているんです。後、他の麺より切れやすい事から、今年一年の災厄を断ち切るという意味合いもあるんですよ」
「へぇ・・・日本は奥が深いね」
「そうなんですよ」
「あ、カウントダウンが始まったよ」


蕎麦を食べていると、付けっぱなしになっていたTVからカウントダウンが聞こえてきた。

「本当。今年もお世話になりました」
「こちらこそ」


箸をおき、頭を下げるキョーコに蓮も同じ様に頭を下げ微笑み合い、自然に顔を近づけ今年最後の口づけを交わした。
その間もカウントダウンは続き・・・


『5・4・3・2・1・・・・明けましておめでとうございます!!』


「ぁ・・・年が明けましたね」
「ん、そうだね」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「明けましておめでとう。今年もよろしく。今年は忙しくなると思うけど、一緒に乗り切ろうね」
「はい・・・」


TVでは賑やかに新年を祝う様子が聞こえ、キョーコはキスを離し蓮に新年のあいさつをした。
蓮も微笑み、挨拶を返しながらキョーコの左手を取りその薬指に嵌められた婚約指輪にキスをすると、再びキョーコの唇を己のそれで覆い、今年最初のキスを送った。

徐々に深くなるそれに、キョーコは抵抗する事なく瞼を閉じ蓮の首に自ら腕を回し身を委ねた。



「キョーコ・・・日の出を見ようか?」


早朝6時。昨夜そのまま寝室へと運ばれて、甘い時間を過ごしそのまま寝入ってしまったキョーコを蓮が起こした。


「ぅん・・・日の出・・・・?」
「うん、晴れているから見れると思うよ」
「日の出、見たい・・・」
「起きれる?」
「うん・・・」


のろのろと身を起こすキョーコは昨夜のまま、何も身に着けていなかった。その裸体に自分のシャツを掛けてボタンを留めてやる。


「まだ日の出まで時間があるから、シャワーを浴びておいで?」
「うん」


シャワーを浴びて眠気を飛ばしたキョーコがリビングに入ってくると、蓮がコートと毛布を持って待っていた。

「ほら、寒いからコートの上からこれを羽織って」
「・・・一緒に入りましょ?」
「うん」


ベランダに出ると真冬の早朝のキーンと身を切るような冷たい空気がキョーコと蓮を取り巻いだ。
だがキョーコを前に立たせ、その背後から毛布を肩から掛けた蓮がキョーコを毛布で包み込むとその冷たさも気にならなくなった。

「あ、上がったね」
「はい、綺麗ですね・・・毎年、こうやって二人で初日の出を見れたらいいですね」
「うん、そうだね。出来るだけ一緒に見ようね」
「はい」

蓮とキョーコの仕事柄、どうしても新年どちらかが仕事でいない事もこれからあるだろう。だから、必ずとは言えなかったがそれでもこの美しい日の出を一緒に見たいと思った。


「今日は午前中に社長さんのお宅にご挨拶に行くんですよね?」
「うん、その後午後からはだるまやに挨拶に行こう」
「はい」


キョーコの作ったお雑煮を食べつつ、今日の予定を確認し合う。

日の出を見た後、キョーコは新春に相応しい着物に袖を通した。この後、挨拶周りに向かう事を考慮して上品な訪問着を選んだ。

上品な白茶色に薄柳、赤香、卵色などで綺麗に染めあげられた絹にあしらわれているのは、ふわりと浮かび上がる雪輪や地紙、木瓜、そして彩りの四季草花・・・で、清楚なキョーコに良く似合っていた。
だが、振袖を期待していた蓮は少なからず残念に思っていたのだが、振袖の帯は自分一人ではとてもうまく結ぶことが出来ないと訴えるキョーコに渋々諦めたのだった。
ちなみに蓮はというと、こちらもキョーコが選んだ正月らしい羽織袴を身に着けていた。着付けはもちろん、キョーコだ。


「振袖姿、見たかったな・・・」
「もうっ!まだ、言っているんですか・・・あれは一人では着れませんよ」
「それはそうかもしれないけど・・・後半年で着れなくなるんだよ?」
「クス、そうですね。あれは未婚女性が着る着物ですから」


そう、6月に蓮と結婚が決まっているキョーコは既婚者となり、振袖を着る事はなくなるのだ。


「大丈夫ですよ。成人式にはちゃあんと、あの作って頂いた振袖を着ますから」
「うん、約束だよ?」
「はい」


キョーコは成人式の為に振袖を用意されていた。資金はというと、もちろん目の前の男・蓮である。蓮は固辞し続けるキョーコを説得し、はたまただるまや夫妻まで味方に付けてキョーコに似合う着物を仕立てていたのだ。今、キョーコが来ている訪問着もその一つだった。


「明日はどうする?ゆっくりする?」
「うーん・・・でも、引っ越しの作業を少しでも進めておかないと・・・美樹さん達が入れないし」
「そうだね。自分達で運べるものは運んでおこうか」


婚約を機に、キョーコはマンション階下にある自室の部屋を引き払う事にしていた。そして、その空いたキョーコの部屋に、同じく結婚を控え新居を探していた社と美樹が引っ越す事も決まっていた。

階下とはいえ、超高級マンションの家賃は普通のサラリーマンには金銭的にはきついものだが、そこはは今をときめく超人気俳優と女優のマネージャー。その月収もそれに見合ったものだった。
それが二人もいるのだから、ここの家賃も払えるだろうとローリィの鶴の一声で決まったのだった。
今、キョーコが使っている家具や家電は蓮の部屋に既にあるものはそのまま社達が使う事になっているため、キョーコの引っ越しは身の回りのものだけになっていた。


「じゃあ、そろそろ行こうか。きっと、社長が首を長くして待っているよ」
「そうですね。久遠さん、今日は車は止めた方がいいかもしれませんよ?」
 
着物用のコートを羽織り、車のキーを手にしようとした蓮にキョーコが止めた。
今日は元日。挨拶周りの際にはお屠蘇としてアルコールを勧められるであろう事はキョーコにも分かった。


「ああ、そうだね」
「大将も今日は久遠さんと飲める事を楽しみにしていたんですよ?」
「それ、本当?」


いつ行っても不機嫌そうにしているキョーコの親がわりの大将に蓮は嫌われているのではないかと内心凹んでいた。そこに、キョーコの言葉に驚いたのは仕方ない事だった。


「クス。本当ですよ。大将は照れ屋ですからね、それにあの顔はいつもの事なんです。久遠さんの事が嫌いだからじゃないんですよ」
「そっか・・・それだと嬉しいな」
「はい」


にっこりと笑うキョーコに、蓮はほっとした様に笑い愛車のキーを置くと財布だけを持ち玄関に向かった。




その後、先に訪れたローリィ宅で捕まったものの、隙を見て抜け出す事に成功した蓮とキョーコは、タクシーでだるまやに向かった。


「キョーコの言う通り、タクシーにして正解だったよ」
「ですね。まさか、あそこまで飲まされるとは思ってませんでした」


キョーコの予想通り、ローリィに捕まった蓮だけでなくキョーコもまた蓮ほどではないがアルコールを勧められた。とはいえ、酒に強い蓮は酔った風もなくだるまやへ着いた。


「明けましておめでとうございます」
「おう」
「これ、この間ロケで見つけたんですが」
「ほう。なら今日は飲めるんだろうな?」
「はい、もちろんです」
「なら、今日は付き合え」
「はい」


大将の言葉に蓮はにっこりと笑い、いそいそと母屋に上がった。
その様子に背後でキョーコは女将さんと微笑みあったのだった。



つづく