時雨でございます。   前回のお話⇒  ≪本当にあった話 七話≫


老人は命の尊さを語り始めた


「我々の肉体はもともと母親の胎内で一つの細胞だった。そこに命が宿り細胞分裂をする。赤ちゃんとして生まれる頃には細胞が三兆個になり大人になると六十兆個にもなる。そしてそれぞれの細胞は違う役割を果たす。目にはは見えないが、全ての細胞の遺伝子を指揮する存在がある。それが命じゃ。意識じゃ。命は物質を超えた存在じゃ。目には見えなくとも存在しておるのじゃ。世界の学者などはこの不可思議な面を『偉大なる何者か』などと表現する者もいる。宇宙の意思という解釈もできる。」


弘美は言った


「何か、宇宙の意思とか・・・凄く非現実的な話になってませんか?宇宙に意志があるなんて考えにくいです」



老人は笑って言った


「ほら、また出たぞい。その決めつけが。では、宇宙に意志が無い事を証明した者がこの世界に一人としているかね?『そんなバカな事が・・』と何故決めつける?」


弘美は言った


「そうですけど・・やっぱり癖で、目に見えないものは信じれないという気持ちになってしまいます。。」



老人は言った



「良いか?まず、何事も頭から否定すると真実を探求する余地が無くなってしまうではないか?もちろん、聞いた話を全て鵜呑みにしなさいと言ってるのではない。疑う事も大切じゃ。同時に、自分が信じてる固定観念も疑ってみる必要がある。君が今までの人生で信じて来た事が、結果として今の君の人生を創ってきた。がしかし、今の君は自分の今に満足してるかね?君が人生をよりよくしたいのなら自分が信じてることも疑ってみることじゃ。そして、偉人と言われてきた幸せな人生を勝ち取った人達が、どんな事を信じ、どういった生き方をしてきたのかを研究する事じゃな」



老人は続けて言った


「新しい発見や発想は世間の常識になるまで物凄い時間を要する。最初は保守的な者たちの考えによって否定されるのじゃ。特に科学者はそうじゃ。『今まで提言してきた事が無駄になる恐怖』があるから、新しい者を否定する。地動説を唱えたガリレオを知ってるかね?彼は批判を受けて裁判にまでかけられた男じゃ。可哀相に。こういった真実を語る学者が保身者達の無教養な批判に攻撃され、そして真実がいずれ勝つという歴史を人類は作ってきたのじゃ。今でもそうじゃ。無知な人達によって真実が折り曲げられたりしておる。宗教などもそうじゃ。固定観念で決めつけるのじゃ。人類とは今が全てなのじゃ。今の科学や実績が全てであると思っておる。でも、もし未来の人から今を見れば、笑い事になるくらいの文明の低さであるかもしれんぞ?そう思わんか?」



弘美は言った


「確かに・・・私が昔読んだ本で、18世紀の学者が、現代で発明できるものは全て発明してしまったなんて事を言ってるのがありましたけど、それから100年以上経った今でもまだまだ発明がされてます。そうやって未来は進むんですね」



老人は頷き言った



「そうじゃ。そういう事じゃ。先の宇宙の話に戻るが、我々が住む地球という星は、宇宙というまだ解明されてない世界の中で一つの惑星として浮いておる。本当に浮いてるかさえも疑問じゃ。そして太陽の周りを一定の周期で周り、精密な動きで全ての惑星が共有してる。こんな絶妙で奇跡的な状況がちょっとでも変化すると、地球上の生命は滅びてしまう。これはイギリスの物理学者ブランドンが提唱している。絶妙なバランスの崩壊で地球の生命は滅びる。この現象を単なる偶然であると君は思えるかね?このバランスを宇宙空間の中で、そして宇宙が維持してるのじゃ。宇宙の意思でじゃ。」



人間と宇宙との関係、意志が繋がっているという事、それらをもう少し詳し話してみよう。



老人は更に語り始めた・・・



つづく





時雨でございます。   前回のお話⇒ ≪本当にあった話 六話≫



弘美は、この老人から今にも教わろうとしてる【人生の軸】となる3つのもの、【3つの真理】を今か今かと一言一句も聞き逃すまいと固唾を飲んで待ってる状態でした。



老人はゆっくりと話始めた。


「よいか、まず一つ目の真理を言うぞ?まず一つ目は、『人間は肉体を超えた崇高な存在である』という事じゃ。その昔、ある偉人がおった。その偉人は自分自身を『宇宙の無限の宝庫と繋がった崇高な存在である』と結論付けておった。彼は人間の本質を知っておった。そして、それを知る事が成功の秘訣であるとも知っておった。中国の孟子を知ってるかね?『万物みな我に備わる』と、古来から偉人達は自分を単なる肉の塊であるとは思ってなかった。君はどう思ってる?肉の塊だと思うかね?」



弘美は今まで人から言われた事のない質問なので、なんて答えて良いか解らなく、困り果ててしまった。


「肉の塊ですか・・・そうですね、肉の塊とは思いませんけど、でも、やっぱり脳がコントロールしてるのかな?とは思います。魂とか心とか不可思議な存在があるのは解りますけど、それが一体何のか、正直、解りません。」



老人は笑みを浮かべて言った


「そうかそうか。なるほど。唯物論という考えがある。それは何とも愚かな学者的な考えあって、人間は肉体以外の何者でもないという思想の事じゃ。つまり、人間は物質的な集合体に過ぎないという理論だ。人間の意識も脳が作り出した物理的作用であるという見解じゃ。じゃが、私にはこの唯物論に合点がいかない事がある。もし仮に君の脳が停止した時、君の意識も本当に停止するのじゃろうか?君の肉体が死ぬ時、君自身も完全に消滅するのじゃろうか?」



弘美は言った


「あの、もしかして宗教とか、そっちよりの話ですか・・?私、そういうの苦手なんですけど。。」



老人は笑いながら言った


「君は不可思議な要素の話が全て宗教的であると思ってるようじゃな。ワシは人間の本質を話そうとしてるのじゃ。宗教の話ではない。人間はな、肉体を超えた存在じゃ。昔の偉人が言ったように、人間は宇宙の無限の宝庫と繋がっておる。全ての人間は意識の深いところでお互いが繋がっておるのじゃ。」



弘美は思った


「確かに、色々な哲学者や自己啓発本なども仕事の便宜上で読んできたけど、お爺さんと同じような事を言ってるケースが多いような気がする・・・やっぱり何か真理があるのかしら?でも目で見て確認できないし、何か信じ難い感じがするわ・・それに、意識が皆で繋がってるって言っても、私の脳も自分の頭蓋骨の中に入ってる訳だし、何かイメージが湧かないわ・・・」



老人は続けて言った



「君は虫の知らせという言葉を聞いた事があるかね?家族の誰かが事故をおこし、その場所から自分は離れた場所にいるのに予感や胸騒ぎが的中するなんて事じゃ。何故離れた場所にいたのにそんな予感や胸騒ぎがしたのかね?それは意識が繋がってるからではないかね?人間は肉の塊と信じてる人には、この話は理解できぬじゃろうな」



弘美は言った


「実は、私も、小学生の頃に祖父が亡くなって、同じような体験をしてます。それと、20才の時に友人が亡くなって、その時同じような胸騒ぎを経験したことがあります・・・それって・・?」



老人は弘美の話を遮るように言った


「君は心理学の予備知識はあるかね?フロイトという心理学者が昔居た。無意識というものを発見した心理学者じゃ。我々の意識には顕在意識と潜在意識があるという事を発見した人じゃ。そしてもう一人有名な学者がおる。それはユングじゃ。彼は『全ての人間は意識の奥底で繋がっており、普遍的に価値共有できる意識をそれぞれが持っている。全ての人間を繋ぐ意識の海のようなものがあり、それをユングは集合的無意識』と呼んだのじゃ。」



弘美は言った


「何か・・・どんどん話が難しくなってきましたね・・・ちょっと混乱してます。。」



老人は言った


「脳が意識を作ってるのではない。意識が脳という道具を使って、更には肉体に命令を出して体を動かしてるのじゃ。人間の体が細胞で出来てる事は知ってるじゃろ?その細胞は数えきれない程の原子から成り立っておる。つまり、人間の体は原子の集まりじゃ。ある分子生物学者が驚くべき事実を突き止めた。それは、我々人間が物を食べると、分解された栄養は細胞に取り込まれ、その原子が古い原子と入れ替わるのじゃ。人間を構成してる原子は1年もあれば入れ替わってしまうのじゃ。全ての細胞が新しく入れ替わるのじゃ。先ほど、唯物論の話をした。肉体が全ての個を決定するのなら、1年で細胞が入れ替わったら、その肉体は別人じゃな。ハッハッハ ヘンじゃな?君は何歳じゃ?」


弘美は言った


「25歳ですけど・・・」


老人は言った


「と言う事は、君は25回も別人になった事になる。ハッハッハ  おかしい事じゃのう。 唯物論や無神論者などは、所詮は浅はかな見解で物事を語ってるに過ぎんのじゃ。人間という生命を甘く見過ぎてるのじゃ。肉体という物資的な入れ替わりがあっても、君は君じゃ。変わらない君じゃ。人間は肉体を超越した存在なのじゃ。これで解ったかね?」



弘美は言った


「解ったような・・・感じですけど、ちょっと納得できない事があります。自分が肉体を超えた存在なら、その自分?魂?は一体どこにいるんですかね?」


老人は怪訝な顔で言った


「君は目で見えないと信じないのかね?君はその目ん玉に絶対的な信頼を置いてると見受ける。そんなにその目は信頼できるかね?目に見えないものは存在しないから、信じない、そういう事かね?君の目はそんなに万能な物かね?」



弘美は少しムカっとした気持ちになって言った



「誰だって自分の目で確かめられた物は信用できるし、それに目に見えるに越したことはないじゃないですか?」



老人は言った


「何とも自分勝手な解釈じゃな。じゃあ、空気中にある酸素だが、人間には必需なものだ。でも目には見えない。テレビやラジオの電波もそうじゃ。君にとってこんなに大切な空気は、目で見えないぞ?目に見えない空気を信頼して吸っても良いのかね?」


弘美は何も反論ができなかった



老人は更に言った


「現代の技術があれば、小さな物を顕微鏡などで見れる。肉眼では見れないものも、科学の力で見る事が出来る。では、もし君が縄文時代の人間だったら、電気や電波、酸素も分子などで出来ているという話をしたら信じるかね?」



弘美は言った


「いえ、多分、信じないと思います・・・」



老人は言った



「人類が絶大の信頼を寄せてる、1年で細胞が生まれ変わる眼球から見えるものを真実であると決めつける。それは真理を見ていない。肉眼で見える情報は人間にとって都合の良いように加工されたものじゃ。肉眼で見えるものが全ての真実であるなんて発想は、催眠術にかかっているようなものじゃ。」



老人は更に言った


「催眠術というのは暗示じゃ。例えば、ある人物に、今から自分の腕には重たい金属がのしかかり、重くて重くて動かす事すらできないと暗示をかける。実際は棒か何かを軽いものを腕にかける。催眠術にかかった人は棒が凄く思いものだと思って、腕を避ける事すらできない。それは脳が暗示を信じるからじゃ。五感から得られる情報全てが真実であると人間は勝手に思い込んでおる。この五感にばかり頼っておると目には見えない本当の真理を見失ってしまうのじゃ。人間にとって最も美しく素晴らしい物とは、それは五感ではなくて心で感じるものじゃ。」



弘美は老人の話が不可思議でありながら、何か確信めいたものを感じ、納得せざる得ない状況になっていた。



老人は言った


「今までの話をもう少し納得して貰う為に、命の偉大さ、尊さ、大切さを今から話そう」




続きは本当にあった話  八話 でお話します。



つづく







時雨でございます。   前回のお話⇒ ≪本当にあった話 五話≫


「自分で自分の事を認める。感情的な面も含めて、自分が恐怖に犯されてる弱い人間である事を自らが認めてあげる。そこに成長がある」


そう老人は弘美に教えてくれた。でも、一番大切な事は一体何なのか?弘美はまだ解らなかった。



老人は言った


「君は自分の恐怖に勝てなかった。でもそれは決して情けない事でもないのじゃ。皆がそうなのじゃから。だから、気がついた今、今後はそうならないように努力をすれば良い。君は仕事をしながら、本来やらなければならない事をやらなかった。それは、部下に幸せになって貰う事じゃ。そして取引先など事業に関わる全ての人たちに喜んで貰う事。これを徹底的に実践することが最終的に自分に幸せに繋がるのじゃ。自分の仕事や部下たちから幸せな人の輪が広がっていけば、これこそが世の中の大きな貢献となる。幸せな社会の土台ができる。大袈裟かもしれんが、これがより多くの人が行えば、幸せな世の中になる。これは理想でも詭弁でもない。それが遠回りに思えて、一番の近道なのじゃ。これも世の中の真理なのじゃ。例えば幸せな家庭を築く事、幸せな地域作り、それも全てが社会貢献になる。社会貢献の小さな輪が増える事で世界の貢献に繋がるのじゃ。」


弘美は老人の淡々とした発言のと、スケールの大きさに驚きと感動が入り混じってる状況でした。



弘美は思った


「確かに話のスケールは大きいけど、とても一般的で当たり前の事にも思える。でもこの当たり前が出来ない人の多い事。家族の幸せそうな笑顔を見て不幸に思う人なんていない。自分も皆が幸せな気持ちになる。どうしてこんな単純な事に私は気がつかなかったのだろう・・・」




老人は言った


「ワシは愛が必要じゃと言った。その愛とは、相手を幸せにしようとか、喜ばせようという気持ちの事じゃ。ワシは、事業していた頃は若くて、従業員や客の幸せよりも売り上げの事などに気が捉われていた。そして最後には事業が苦しくなった時に、信頼しているはずだった従業員にも裏切られ、商売を潰す事になったのじゃ。誰が悪いか?全てワシが悪いのじゃ。従業員や顧客の事よりも、自分のエゴを守ろうとしたからじゃ。自業自得じゃ。」



弘美は言った


「立場は違えど、まさに、私も同じような状況だと思います。他人事とは思えません。私も部下たちに幸せになって貰いたいなんて思いは一切ありませんでした。私には愛が欠けていたと思いますが・・・」




老人は言った


「何もそんなネガティブにならんくても良い。気がついたのだから上出来じゃ。人間は、恐怖によって行動する時は本当の幸せから遠ざかるのじゃ。本当の幸せは愛に生きる時に齎せる産物なのじゃ。人間は愛に生きる事で本当の幸せや、人との繋がりを感じるのじゃ。ただ、ワシは最初から完璧を求めてるのではない。恐れても良い。それが人間じゃ。大切なのは、恐れに支配されない事じゃ。恐れの中でも愛を選択できる勇気さえあればいいのじゃ。全てを恐れに支配されてはならん。そして、その鍵を握るのが自尊心なのじゃ。自分自身を自分を自尊心で満たす事がポイントなのじゃ」



弘美は言った


「自尊心ですか?プライドの事ですか?」


老人は言った


「ワシが言う自尊心とは、自分の事を価値ある存在として認めて、尊重し、信頼する心の事じゃ。自尊心を満たせない者はその不足分を他から認められる、埋め合わせられる事で補おうとする。でもそれは人から評価に依存する事であって、人から認められたいという恐怖が常に付きまとうのじゃ。逆に自尊心を自分自身で満たせる人は人からの評価には恐れない。君は自分の事をどれだけ認めているかね?」



弘美はギクっとした。



「・・・正直、今の私は部下にも裏切られて自分がとても情けなく、自分を認めるなんて気には一切なれません。自分が結果を出して、周りの評価も高い頃はとても自信があって気分も良かったです」



老人はいった



「君は結果に固執しておる。それでは結果が出ないと自分を尊重する事が出来ないではないか?でも、人間というのは結果に関してどうしても波が出るものじゃ。どんなに優秀なオリンピック選手だって結果には波が出るものじゃ。完璧な人間などこの世にはいないのじゃ。常に結果を出す事でした自尊心を満たせないなら、それでは疲れてしまうではない?違うかね?」



弘美は言った


「それでは・・・結果に波があるなら、行動というプロセスを自分の自信につなげて自尊心を保てば良いでしょうか?」


老人は軽く頷きながら温かい顔つきで言いました



「いや、結果に波があるように行動にも波がある。人間は頑張りたくても頑張れない時だってあるのじゃ。精神的に疲れてる時、体力的に疲れてる時、皆完璧には行動できないものじゃ。だから、行動によって自己評価をするという指標では、それが出来なかった時に自分を責めてしまう。鬱病患者などがまさにそうじゃ。行動出来ない自分を更に責めるのじゃ。」


老人は更に言った


「行動によって得られるもので物事を議論しない事が重要なのじゃ。例えば、子育てを例にして、もしその子が親が期待する行動をした時に『良い子だ』と褒めたとしよう。でもそれはその子の行動に対して評価した訳である。だが、それはその子自信を褒めた訳はない。行動によって出た結果を褒めたのじゃ。大切なのは、その子自身の存在を認め、それ自体を褒めてあげる事なのじゃ。生きてるだけで、存在があるだけで褒めるに値するのじゃ。だが、それを褒める、認める事をしないと、その子自体が自分の存在の有無が不安になってくるのじゃ。このままの自分ではダメではないか?と思えてきてしまうのだ。行動や現象に対して褒めるのも大切じゃが、まずは何より、その存在がある事自体を認めて上げる事に、人の自尊心とは強化されるものじゃ」



弘美は今までの人生で考えても見なかった哲学、思考方法に出会い、何とも言えない驚きと感動をしていた。まさには「感無量」とはこの事だった。



老人は更に例え話を言った


「もう一つ、例をあげよう。昔、秀才の女の子が居た。その子は成績が良いことばかりを褒められて育った。行動による結果ばかりを評価された彼女は、良い成績を出さないと自分には価値がないと思うようになった。つまり、結果を出せない自分は価値がないという判断基準が備わってしまったのだ。そして彼女、その後も高校も大学も勉強勉強になり、社会に出ても、結果を出さないと自分の価値を見いだせない不幸な人生を歩むようになってしまった。」




弘美は思った


「まさに、私の事じゃかしら・・・」



老人は更に言った


「もう一つ、例がある。ある男の子の話じゃ。その男の子は、父親から『男なんだからもっと積極的に行動しろ!』と言われておった。でも彼は男らしく積極的に行動するのが苦手だったのじゃ。それを見た父親が『お前はどうしてもっと男らしく積極的に行動できないのだ?』と嘆いた。これは、その子の行動に対して嘆いてるが、その子の存在すらも否定する結果になる。そしてその男の子は、男らしく行動できない自分に自信が持てず、存在すらも否定された気持ちになったのじゃ。大切なのは、その子達の行動を元にその子自身の事まで評価してしまう、存在価値を決めてしまような事はせず、その子の存在はどこまで行っても尊重し認めてあげる、これが重要なのじゃ。」




「部下にしても、子供にしても、彼にしても、彼女にしても、そして兄弟にしても親にしても、大切なのは、互いが存在を認め合う事なんじゃ。『君はそのままで素晴らしい存在なんだ』と言ってあげる事。子供も良い成績を出した時に褒められ認められる事が幸せではなく、悪い成績を出しても、その存在を尊い抱きしめられることで満たされるのじゃ。自分の存在そのものを受けれてくれる事で自尊心が満たされるのじゃ。君はそのままでも素晴らしいと認めてあげる事じゃ。我々人間の存在価値とは、取った行動や結果も重要じゃが、それ以前に、存在する事にあるのじゃ。これに人々が本当に気がついた時に各々の自尊心は満たされるのじゃ」



弘美は何かスケールの大きい壮大な話を聞いてるかのような気持ちの中にも、至極当然、当たり前の事を聞いてるかのような不思議な気持ちになりました。


老人は言った


「君は今、今までの人生には無かった、考えて来たような考えてはいなかった、新鮮な話をワシから聞いてるじゃろう。人生の発見とはそんなものじゃ。知っていたようで知らなかった、聞いていたようで聞いてなかった、そんなものなのじゃ。今からワシが人生における3つの重要な事を明かそう。それを知る事で君の人生も多く変わる事じゃろう」



続きは本当にあった話  七 話 でお話します。



つづく







時雨でございます。   前回のお話⇒ ≪本当にあった話 四話≫




老人はある男の話を始めた


「昔、ある男は、宝石商として成功し、有名になった。多くの人が彼を賞賛し、彼を慕い、常に彼の周りには人がいた。そして彼は他にも色々な商人や権力者とも会うようになった。その中には、彼よりももっと大きな事業を営む者もいれば、政治的に有名な人なども居た。そんな成功者と会う時、彼は劣等感を感じ気後れしていた。『もっと自分も認められる人間になってもっと尊敬されたい』と。そう考えた彼は自分の商売をもっと大きくし、収入を増やし、名声を得たいと思った。もっともっと。そしてある時、彼は全ての財産を失った。事業に失敗したのじゃ。彼の周りからは多くの人が去り、彼は孤独だった。」



老人はどこか、寂しげで悲しそうな目をして語っていました。弘美は老人に言った



「何だか・・・他人事には思えません。私も時間をかけて築き上げてきたものを部下の裏切りで失いましたし、規模は違えど、同じ境遇な感じがします・・・」



老人は言った


「彼が失ったもの何じゃろうか?築き上げてきたものを失ったのじゃろうか?成功して繋がった人との縁を失ったのじゃろうか?いや、どれも違う。そんなものじゃない。何故なら、彼は最初から何も得てないのじゃ。人とも深いところでは繋がっていないのじゃ。彼の周りに集まった人達も、彼自身と繋がっていたのではなくて、彼の出した結果に対して集まっていただけじゃ。本当に彼と繋がっていたのなら、彼が失敗してピンチになった時こと力になろうとするはじゃないかね?彼は、何も築き上げてなどなかった。無だったのじゃ。」



弘美は、まるで自分自身の事を言われてるようで耳が痛かった。弘美は言った


「その男って、一体誰なんですか?」


老人は笑いながら言った


「その男は、ワシじゃ ハッハッハ」



「今思えば、とても良い経験になった。おかげで今がある。大切な事も学べた。ワシが真の人間との繋がりを得られなかった理由は、人との繋がりを依存的な方法で繋がろうとしていたからなのじゃ。ワシは当時、純真な気持ちで商売を始めた。世の中の役に立ちたいという志もあった。じゃが、商売が上手くいくにつれて、人から認められるようにつれ、知らず知らずに有頂天になった。周りの賞賛に酔った。若かった。次第に謙虚さを失い、ワシを認めない者を敵だと思うようになった。そして、ワシを認めないと言う事は、もっと自分が成功して、認めざる得ない状況を作ってやろうと躍起になった。周りからの評価が気になり、自分で自分の首を絞め始めたのじゃ。」


弘美は言った


「私も同じでした・・・周りの評価や他人の目が気になり、自分が女性である事の劣等感もあり、どうしても結果を出して周りを平伏させたかった、認めさせたかったんです。人からの評価ばかり気にしてました。」



老人は頷きながら言った



「そうじゃろう、そうじゃろう、ワシが若い時もそうじゃった。それは恐れなんじゃ。人からの評価に依存して生きてると、手に入れた評価を失うのが怖くなり、恐れ、更に評価して貰うために頑張るようになる。人から認められるために幸せの種を犠牲にしてまで頑張ってしまうのじゃ。」



弘美は思った


「人から認められるために幸せを犠牲にする?それでは確かに本末転倒だわ・・・何の意味もない。」



老人は言った



「人に認められる事を目指すと言う事は、周りの人間の価値観に自分の人生が振り回れるという事じゃ。実は、これは今の日本の教育もそうじゃ。小さい頃から周りの目や評価を気にし、それに負けないように親も子供に習い事を沢山させ、評価の高い子供に作り上げようとする。何とも愚か。その子供が持ってる、その人間が持ってる、本来のオリジナル、良さ、個性、それを認めて、活かし、伸ばすという発想を持ってる親も少なく、そして社会のシステムも、会社も、全てがそうなのじゃ。評価評価評価。周りから評価されることばかりを考えておる。それは全て、恐怖心から来てるものじゃ。弱い人間だからこそ、評価を恐れるのじゃ。努力して勉強し結果を出す人間が必ずしも強いのではないぞ?評価を気にするのは弱さの表れじゃ。」



弘美は言った


「自分らしさ・・・自分らしさって何なんでしょうか?私も含めて、自分らしさを出せてない人が多いと思います。私もそうでした。こんなんじゃいけないですよね。自分をもっと信じて愛さないと。」



老人は言った


「良い事に気がついたな。そう、自分をもっと信じる事じゃ。そのままの自分で良いのじゃ。自分らしくを追い求めるのじゃ。人は皆繋がりを求めておる。人間の行動の動機は突き詰めると二つしかない。それは、恐怖か愛じゃ。」


更に老人は言った


「君は部下が怖かったのじゃ。もし部下が君を心の中で馬鹿にしていたら?君自身のプライドが傷つく怖さじゃ。もし部下が会社を辞めたら?自分の管理不足で自分の評価が落ちる事の恐怖じゃ。部下に叱咤激励しても部下の行動が変わらない。『もしかした私は部下に馬鹿にされているのではないか?』その怖さが心の中で増長され、プライドを傷つけれらたくないという思いが怒りに変わる。そして部下を怒鳴る。そうじゃろ?そうじゃないかね?」



弘美はあまりに図星な指摘に返す言葉がなかった


「は、はい。全くその通りです。」




老人は言った


「君の中のプライドを傷つけられたくないという恐怖が部下を敵だと捉え、怒りという感情を生み出すのじゃ。怒りの背後には恐れがあるのじゃ。」




老人は更に続けた


「話が戻り、当時のワシも愛ではなく恐怖と怒りに支配されて生きておった。人から認められたいという衝動は、裏を返せば、人から見限られる事の恐怖であり、相手にされなくなることの恐れ、繋がりがなくなることの恐れじゃ。これは同時に、自分の存在価値にさえも自信を失うのではないかという恐怖にも繋がるのじゃ。自尊心が傷つく事の恐怖じゃ。恐れに支配されないためには、まず自分の中の恐れを認めてあげる事が重要になる。意固地になってはダメじゃ。素直に『私は怖いんです』と自分で自分を認めてあげることなのじゃよ?」



弘美は気がつくと涙がこぼれて来た。


「自分で自分を認めてあげる。何も特別じゃないんだ。誰だって怖いんだ。でもそれで良いんだ。恐怖に怯える自分を自分が一番理解して認めてあげる。それが大事なんだ。そうなんだ・・・今まで自分の心と向き合ってなかった・・・」



弘美は強く反省した。そして老人の言う事が胸に突き刺さり、とても大切な事に気がつけた驚きや喜びで涙が止まらなく出て来たのでした。



続きは本当にあった話  六 話 でお話します。



つづく






時雨でございます。   前回のお話⇒ ≪本当にあった話 三話≫



老人は弘美に聞いた


「君が一番望んでる事は成功であり、その成功とは自分の好きな仕事で結果を出して、お金持ちになって、服も、車も、家も買う事なんじゃな?ではワシから質問がある。次の二つのうち、仮にどちらかを選択しないとしたら、君はどちらを選択するかな?一つは、ビジネスでも成功し、出世してお金持ちになり、好きな服も車も家も、そして旅行も行きたい放題じゃ。でも、気持ちはとっても不幸な人生。もう一つは、仕事も出世も収入も平均的で、特に高価な物が買える訳でもないが、気持ちはとっても幸せな人生。君ならどっちを選択する?」



弘美は言った


「それは、もちろん気持ちが幸せな人生ですよ。だって幸せじゃないのにお金や地位や名誉があっても意味がないですからね・・・要は、あなたが私に言いたい事は、私が最も望んでる者は成功じゃなくて、幸せな人生だろう?と言いたんですよね?」


老人は小さく頷きながら言った


「そうじゃ。君に限らず、人は誰だって幸せであることを心から望んでる。不幸になりたいと願ってる者などワシは今まで会った事がないな  ハッハッハ!」


弘美は何か煮え切らない気分になった。そんな事は当たり前じゃないか?と思ったからです。



「私は、自分の人生に目標があります。人より明確な目標です。それに向かって誰よりも努力して走ってきました。目標ノートだってあります。私は仕事も趣味も、恋愛も、そして好きな物も、全てはそういった目標に向かって努力し、達成する事で幸せになれるんです。だから人生目標を設定しそれを達成した先には幸せがあるはずです。」


老人は笑みを浮かべ言った


「目標を達成したら本当に幸せなのかね?ワシはそうは思わんな。世の中には、仕事にしても何にしても、成功をして欲しかった物を何でも手に入れ、それでも幸せじゃない者が沢山いる。どんなにお金持ちで周りに人が居ても孤独で心が満たされない者。成功したのに不安や劣等感から解放されない哀れな者。目標に執着して、成功の過程で本当に大切なものを失ってしまった者など、ワシはそういった人間を今までに数えきれないほど見て来た。彼らは信じていた。君と同じようにな。目標に向かって努力し、達成した暁には幸せが待ってると。でも幸せは来なかった。何故じゃ?彼らの何が悪かったのじゃ?君と彼らがどう違うのじゃ?」



弘美は下をうつむいて老人の言う事に答えられなかった。老人は更に言った



「彼らはな、そして君も、本当の幸せとは何か?を知らないのじゃ。知らなかったのじゃ。彼らも純粋に幸せを望んでいた。しかしな、金持ちになる事を目標して頑張ってる者は、金持ちになる事が幸せだと思ってる。心の何かで、漠然とそうだと信じてるのじゃ。人から認めらるために頑張ってる者は、人から認められれば幸せになれると信じてるのじゃ。多くの人間は、自分にとっての幸せが何を知らないがために、本当の幸せを犠牲にして生きてる事に気がつかないのじゃ。例えば、ある者はお金を得るために、ある者は地位や名誉のために、ある者は自分の存在を知らしめるため有名になるために、その過程で本当の幸せを犠牲にするのじゃ。」



弘美は少し疑問が出てきた。



「でも、成功してお金持ちになったり地位や名誉を得るから、必ずしも幸せを犠牲にするとは限らないですよね?」


老人は笑って言った


「もちろんそうじゃ。お金持ちや地位や名誉があっても周りの人から尊敬されて幸せな人生を過ごしてる者も沢山おる。彼らは本当の幸せが何か?を知ってるのじゃ。それを知ってる者からすれば、お金も、地位も、名誉も、全ては幸せな人生を楽しむための一手段に過ぎないのじゃ。君の場合は成功する事が人生の目的になってるのではないかね?」



弘美は金槌で頭を叩かれたような気分だった。「確かに・・・その通りだわ。私の周りの出世してる上司も社長も、皆同じかもしれない・・・」


「私は、成功する事が手段だったんです。でも、あなたが言うように、いつの間にかそれが目的になってました。冷静に考えてみると、今までの私の人生で、本当の幸せとは?という問いを深く考えた事がないかもしれません。」


老人は言った


「そうじゃ。その通り。ワシが君に軸がないと言ったのはそのことじゃ。」


弘美は目から鱗が落ちたような気分になった。



「今までの人生、私は一体何をやってきたんでしょう。情けないです。どうか、私にその軸を教えて下さい!」



老人は言った


「まぁまぁ、そう焦るな。それでは、軸を教える前に、君に無い、君に欠けてる人との繋がりという話をしよう。」



「君は巨万の富を得て全てを手に入れたとしよう。家も車もレジャー施設も映画館もレストランも何でもじゃ。しかし、その富の全ては誰もいない南海の孤島にある。その島では君一人じゃ。でも、何でもある。好き放題に遊べる。食べ物も何でもある。どうじゃ?面白そうかね?」


弘美は言った


「それは・・・楽しいとは思えません。だって自分一人ですよね?誰も居ないんですよね?それは寂しいです。耐えられないと思います。孤独ですよ・・・」


老人は言った


「そうじゃろうな。現代人と言うのは、孤独な者が多い。それはまるで、海で遭難し、漂流し、大量の水に囲まれながらたった一杯の真水がないために喉の渇きで苦しむようなものじゃ。様々な人間に囲まれながら生きてるはずずなのに、心の繋がりがないために孤独になるのじゃ。」



弘美は思った。「まさに私の事だわ・・・なんて悲しい事なんだろう・・・」



老人は更に言った


「人間は皆、繋がりを求めてる。人間同士の繋がりこそが幸せの鍵となるのじゃ。そして重要なのは、どのようにして人と繋がろうとするか?なのじゃ。真の繋がりをどう得るか?にかかっておる。君が成功する過程において、人から認められたい、女性として社会でも通用するんだと認められたい、そして結果を出して成功したい、そういう思いがあると言っておったな?人から認められるには何が必要だと思うかね?」



弘美は言った



「もちろん結果です。結果は嘘をつきません。百聞は一見に如かずです。結果を出さずに大きな事を言ってるような人間には私は絶対になりたくありません!」


老人は若気の至りの弘美を見ながら続けて言った



「では、君が仕事でも人間づき合いでも全てで結果を出して、周りからも尊敬される成功者になったとしよう。それで本当に人と繋がったと実感できるかね?心は満たされるのかね?」



弘美は自信ありげな顔で言った


「はい、それだけ明確に結果をだして成功すれば、多くの人が私に興味を持つでしょうし、私の話を聞きたがると思います。周りに人も寄ってきて、仲間の輪が増えると思います。私の心だって満たされますし、孤独であると思わないと思います。人と繋がってると思います。」


老人は疑う顔つきで言った


「本当にそうかね?ワシには全くそうは思えんな。それじゃ、ワシが知ってるある男の話をしよう。」


老人はある男の話をし始めた・・・




続きは本当にあった話  五 話 でお話します。



つづく