ディスプレーデザイナー 16




 キョーコは素直に耳を傾けていただけなのに、内容は人としてかなり変わった体質というか、信じられなかった。


「あの……帯電体質というのは、前にテレビでも見た事があり知っていますけど、十秒で壊す程って…あるんですか?」
 信じられないとキョーコが声を上げた。
「別名、クラッシャー社と呼ばれているんだよ」
 蓮は面白そうに別名まで教えてしまった。
「……クラッシャー…?」


 体質とはいえ、目の前の社からは『クラッシャー』の言葉は思いつかない。それどころか優しい好青年にしか見えないのに、その別名は可哀想だとキョーコは思った。


「なんか、社さんには似つかわしくない別名ですね。私からすると、優しいお兄さんのような感じがしますけど……」


 キョーコが笑みを浮かべながらそう答えると、社は嬉しそうにキョーコの両手を取って叫んでいた。


「分かってくれる? キョーコちゃん!!」
「は、はい!?」


 社に真剣な顔で手を握られ間近で訴える目に、キョーコはタジタジに狼狽えた。


「俺だってこんな体質になりたくてなった訳じゃないんだよ! それでもまだ薄手の手袋とかするだけでもどうにかなるんだけどね、焦って携帯に出たりとかすると……」
「……もしかして、壊れてしまうと?」
「そうなんだよ! ……どうしてこうなったのか……」


 キョーコの手を握って力説する社に、蓮は少しばかり面白くなかった。だが変に割り込んでもキョーコにおかしな目で見られるのがイヤで、どうにか二人を引き剥がしたかった。


「社さんには、社さんの素敵な才能があるじゃないですか。敦賀さんのデザインを素敵に作り上げるパタンナーというお仕事の才能です。だから神様が、ちょっといたずらして変わった才能までついでに付けちゃったんですよ」


 キョーコの言葉に、社だけでなく蓮も不思議な感覚に捕らわれた。


 ……彼女は天然か?
 確かに社さんの体質は色々と厄介な事もあるが、パタンナーと一緒に神様がいたずらで付けたなんて…、神様のお茶目ないたずらにしてしまうなんて、メルヘンチックな思考なのか、天然な性格なのか……。
 どちらにしてもユニークで、社さんの厄介な体質を軽くしてくれるような……煙に巻いたようでもあるけど、好きだな……。
 ポジティブで、彼女の笑顔と一緒だ。
 優しくて、暖かい言葉……。


「そんな風に言ってくれたのは、キョーコちゃんが初めてだよ! ……なんかこの体質とも、上手く付き合えそうな気がしてきた!」
 社はキラキラとした目で、嬉しそうにキョーコを見つめた。
「俺も前に言った事あった気がしますよ。パタンナーとしての仕事の才能がある人なんですから、機械に触れる仕事は少ない。気にすることはないって…」
「お前の言い方と、キョーコちゃんの言い方では雲泥の差があった。キョーコちゃんの方が、絶対優しくて、俺の心に響いたんだよ!」


 この言い方で、社はキョーコに対して信頼と愛情を感じている事が蓮にも伝わった
 しかし、いつまでもキョーコの手を持ち続けることが面白くないのは変わらない。


「社さん。キョーコさんをいつまで捕まえておく気ですか?」


 蓮の言い方は優しいが、声の主からの寒気に社は慌ててキョーコの手を離した。
「ちょっと嬉しかったからだからな、蓮!」
 慌てて言い訳のように言う社に、蓮は少しだけ冷たい視線を送りつつも、キョーコには優しい笑みを向けた。


「キョーコさんは面白くて素敵な考え方をするんだね」
「そ、そんな事はないですが、人の良いところを見つける事は好きです。誰だって完璧な人間はいないですけど、素敵なところは色々持っているものですから……」
「そうだね。その考え方は、俺も好きだよ」


 蓮の笑顔が深まり、同じ考え方を好きだと言われた事が、キョーコには何故か分からず顔に火照りを感じて俯いてしまった。


「あれ? キョーコちゃん?」
 社が心配そうに声をかけるが、今の今で同じ間違いは起こすまいと、それ以上には近付かなかった。
 代わりに蓮が近付き、そっと肩に手を置いてイスに座らせた。
「キョーコさん。よくわからないけど落ち着いてくれない?」
「は…はい。あの……少し、待ってください」


 そう答えたものの、キョーコの頭の中はパニックを起こしていた。
 蓮の「好きだよ」の言葉がこだましていた。


 ……どうして?
 敦賀さんが言ったのは、考え方の事よ!
 私を好きと言った訳ではないのに!


「それにね、俺だって完璧な人間じゃないよ」
 蓮はキョーコが落ち着くようにと、自分の話を始めた。
「……敦賀さんほどにお仕事も出来る方でもですか?」
 キョーコは不思議そうに聞き返した。


「俺がデザイナーとして仕事を始めるきっかけが、コンプレックスからだって言ったら信じてくれる?」


          《つづく》       17へ


やっと二人の話になってきた感じ…(^▽^;)

加速装置つけたい…UP

(分かるかな?f^_^;)
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