ディスプレーデザイナー 17




「敦賀さんのコンプレックス?」
 キョーコは驚いて蓮を見つめた。
 
 容姿端麗。背も高く美しいとさえいえる顔立ち、姿形はモデルも出来る程の美男子だ。その上デザイナーとしての才能もあり、溢れる才能に恵まれているとしか思えない。
 そんな蓮がコンプレックスが元で仕事を始めたというのは信じられなかった。


「親の遺伝もあってか、身長が190センチもあると周りから浮いてしまう事もあったんだ。今はこの身長も、モデルとしては利点にもなるけどね」
「そうですよ。敦賀さんの颯爽と歩く姿は、素敵です!」
 一度だけ見たショーの様子を思い出してキョーコが言った。
「ありがとう。でも俺は、この身長の高さがイヤな時期があったんだ」
「そうなんですか?」
 苦笑する蓮に、キョーコは再び驚きで蓮を見つめた。
「周りも成長期で身長は伸びるけど、俺はそれに輪をかけて伸びた。急激に延びる骨はきしむと言うけど、正に俺はそのタイプだったんだ」
「聞いたことがあります。骨が痛いくらいになるって……」
 キョーコは聞いただけでその痛みを感じるように辛そうな表情をした。
 蓮はそれ程に感じてくれるとは思わず、キョーコの優しさを感じた。


「初めは、男なら少し背が高いぐらいと思っていた。それが気付いたら……親しいといえる友人がいない状態になっていたんだ」
 それは蓮が思うよりも、その容姿に女の子からモテる事への嫉妬もあったが、蓮自身には直接告白をする勇気のある女の子も少なく、それ故に蓮は敬遠される事となった。
 キョーコも今の蓮を見ていれば嫉妬などからくるものが大きいと分かるが、まだ成長過程の少年の心には、友人と呼べる存在がいない状態での学生生活は寂しくてたまらないと思った。
「そんな事があったんですか……」
「俺の何がいけないのか……。そう思ってみても、直しようもない事で友人がいない、一人に近い生活は寂しくてね。趣味らしい趣味がなかった時、自分に合うサイズの服が年相応のタイプに無くて、親はブランドものでもいいから身体に合うものを着ればいいと言ってくれたんだ」


 それは親とすれば当たり前のことだが、蓮には親に負担をかけることをよしとしない気持ちが大きかった。


「まだ成長が止まった状態でなら年数を着ることが出来るからいい。多少高い服でも何年か着られるなら元を取れる。だが1年と経たずに身長が伸びて体格も変われば、直ぐに着られなくなる。折角の服を次の年には着られない。それどころか季節が変わる頃には俺に合わないサイズになってしまったら、余りにも高い買い物になってしまう。さすがに親への負担が気になってしまった。両親は大丈夫と言うけれど、何かないかと思っていた時に雑誌でデザインとパタンナーの記事を見つけてね、自分でも作れないかと図書館に行ってみたり調べてみたりしたんだ」
「敦賀さんが?」


「そうなんだ。コイツ、デザイナーとモデルを兼業しているから今はしてないけど、パタンナーとしてもやっていける力はあるんだよ」


 社が出会った頃の蓮の仕事振りを思い出しながら説明した。
「俺には趣味といえるものはそれ程無かったから、やり始めたら楽しくてね。趣味が自分のサイズに合った服を作る事になっていったんだ」
「それは趣味と実益を兼ねて……ですか?」
「そんな感じかな。何より親の負担も減らせたし、自分の趣味として楽しみながらだから、一石二鳥だよね」


 蓮は懐かしそうに……コンプレックスだった時を乗り越えた自分に、少しだけ寂しさを感じた自分の昔を思い出しつつも、あの時があるからこその今を感じた。


「……敦賀さんにとっての…デザイナーとしての最初の一歩ですか?」
「そう……。でも趣味が服を作る事となると、『ヤローの趣味が洋裁!? 女か? 気色わりー』 そう言われていたよ」
「そんな……」
「そのせいだろうね、また男の友人も減った」
「そんな……そんなの変です! 趣味が違うからって、敦賀さんが悪い事をしている訳じゃないのに!」
 キョーコは見えない過去……蓮の離れていった友人達に、腹を立てて言った。
「そうかもしれない。でもね、デザイナーの世界は男性も多いだろ? ただ、それもコッチの世界の人も多いって訊いたこと無い?」
 蓮が右手の甲を左頬に当てて、ある種の人達を表現しようとした。
 デザイナーの世界は詳しく無くても、キョーコにもその意味するところは伝わった。
「そういう意味でも敬遠された可能性はあると思う。俺がデザイナーとして、モデルとしての仕事で久し振りに会えた友人達からは、趣味で終わらずに仕事で成功して凄いとも言われた」
「そうですよ! デザイナーと一言で言っても、流行廃りで消えてしまう人もいます。でも『蓮』のデザインは、流行に惑わされない洗練された良さがあるって、雑誌にも載っていました。私もそう思います!」
「ありがとう、キョーコさん。君にそう言って貰えると、お世辞じゃない本物の意見として訊いていられるよ……」



            《つづく》     18へ



さて、本題にはいったのか…(^▽^;)?(やっとか?)

でも…そんなタイミングですが、隔日アップの間隔が変わるかもです。

代わりに妄想が入ったりの予定です。


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