ディスプレーデザイナー 15




 打ち合わせが予定よりもスムーズに進み早く終わったこともあるが、蓮の言葉巧みな技に丸め込まれ、そしてキョーコ自身もファッションデザイナーの職場に興味を持ったのだ。
 それに、いつとは決まっていないものの、一緒に仕事をする事になる人なら、相手の仕事を知っておくのは確かに必要だとも思った。


「無理に付き合わせたかな?」
「いえ、そんな事は無いです。色々と見てみるのも勉強ですから……。それに、ブランドとしても有名な『蓮』のお仕事場ですから……」


 素直に興味を持った事、そして蓮の優しさを感じた事でキョーコは楽しい期待を持ちながら蓮と共に歩いていた。
 だがデパート内の仕事場への通路を、チラチラとすれ違う人の目線をキョーコはずっと感じて歩いた。


 ……やっぱり敦賀さんは、同じ職場の中でも人気があって、注目されることも多いんだ。
 デザイナーと言うことだけでも、モデルとしての看板でもあるその容姿も、一流の人として……遠い人……。


 キョーコがそう思うことで、蓮が近付いたと思う距離をまた一歩後ろに下がってしまう。
 そんな思いも今…目の前に蓮が歩いている事で、キョーコは不思議な感覚に囚われていった。


 ……今……私は本当に、『敦賀蓮』と一緒に居るのかな?
 夢じゃない?
 とっても楽しいところで醒める夢じゃないの?


 そんなキョーコの思いを現実とする場所に、直ぐに辿り着いた。


「此処が俺達の仕事場です。キョーコさん」
「俺達?」


 言われてみれば、先ほどの言葉にも「俺達」と言っていた。複数系の言い方に、キョーコは他には誰なのかと入る事を躊躇った。


「なんだ、蓮。キョーコちゃんを連れて来る事に成功したのか?」


 その声に、キョーコは聞き覚えがあった。


「社さん。……その言い方には語弊があります。無理に連れて来たようにも聞こえるじゃないですか……」


 蓮が少し困ったように言うのを聞きながら、キョーコは部屋の入り口に立つと、その声の主を確認した。


「社さん。……そう言えば、ディスプレーの途中でガラスをノックしたのは社さんでしたね。敦賀さんと社さんは組んでお仕事をしていらっしゃるんですね」
「ようこそ、俺達の仕事場へ……。そうなんだ。俺の仕事部屋は、俺以外は主に社さんというパタンナーぐらいしか出入りしないから」
「パタンナー…ですか?」
 珍しい名前にキョーコは聞き返した。
「俺のデザインから、布としてどういった形に切り、縫い合わせていくかを形作っていく職業の人をそう言うんだ」
「そうなんですか。初めて訊きました」
「デザイナーよりも、ある意味では高度な技術がいるところもあるけど、職業的には表に出ない仕事でもあるから、名前としては余り知られていないんだ」


 社の技術が素晴らしいこと。そしてその社が居てこそ…自分のデザインした服が世に出て、『蓮』としてデザイナーの仕事ができ、『敦賀蓮』としてその服を身に纏いモデルの仕事が出来るのだと……先輩としてだけでなく尊敬している事をキョーコにも紹介したかった。


「よせよ、蓮。お前のデザインを形にしていく事は俺も楽しいんだぞ。そしてその服を颯爽と、カッコ良く着こなして歩くお前を見ていると、充実感が実感としてやりきった気持ちになって、仕事という枠じゃなく楽しいんだ」


 互いに誉め合う蓮と社の笑顔に、嘘は見えなかった。


「素敵ですね……。お互いに信頼して、尊敬し合えて、一つのものを完成してゆく喜びって、とても素敵だと思います」


 柔らく可愛らしい笑みと共に言うキョーコに、蓮は嬉しい微笑みを浮かべ、社はキョーコの笑みに何か納得するものを感じた。


 ……キョーコちゃんって、こんな可愛い笑顔になるんだな……。蓮が直感でだと思うけど、キョーコちゃんを選んだ意味が分かったような気がするな…。


 社はキョーコの来室を喜び、蓮と共にお互いの仕事について、またデザイナーとパタンナーとの共同作業について等をキョーコに分かりやすく説明をした。


「私ではデザインからこんな風に図面を開いていくのは、特殊な才能がいるような気がしますね」
「図面というより型紙という方が正解だね。でも……特殊な才能……」


 キョーコに答えながら…蓮が『特殊な才能』という言葉に、笑いを堪えながらも視線を社に振った。
 キョーコは蓮の様子に、社に何かあるのかと二人の間を視線が行き交った。


「あの……何かあるんですか? 社さんに、他にも特殊な才能が……」
 キョーコがそう口にしてしまうと、社は微妙な顔で蓮を睨んでいたが小さな溜息と共に「言ってもいいよ」と呟いた。

「あの……ご都合の悪いことでしたらいいですよ」
 キョーコが控えめに話を納めようとした。
「いや…寧ろ知っておいた方が仕事で組むならいいと思うよ」
 蓮にそう言われて、キョーコは仕事にも関わる事ならと耳を澄ませて蓮の続きを待った。
「社さんの体質なんだけどね、電気体質と言っていいのか帯電しやすくてね、そのせいか機械物は素手で持つと十秒で壊れるんだ」


          《つづく》      16へ


ちょっと「特殊才能」という事で…(^▽^;)あせる



只今、アップ部分と、書いている所と、メモ書き状態の部分と、

頭の中が混線中です・・・・(続き妄想も書いてるし…)

下書きに№なかったらもっと偉い事になってるかもあせる

今のBGMは「Dream Star」ですハートパワーアップ出来ます!


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