ディスプレーデザイナー 14



「もしこの後に時間があるなら、俺達の仕事場…見に来ませんか? キョーコさん」


 打ち合わせが終わったところで蓮はキョーコに声をかけてみた。
 断られたらそれでもイヤだとは思わなかった。
 いつか仕事を組むかもしれないのなら、それまでもう少しだけ……距離を縮められるならと思っただけだった。


 だがその言葉に反応したのはキョーコよりも周りだった。ざわめいてひそひそと話す女性達。
 その様子に、蓮は声のかけるタイミングを失敗したかと思った。


 今までの例からいけば、キョーコが仲間外れにされる事はないだろうか?
 仕事の腕は認められていても、このデパートの人間ではない。余所者扱いで仲間外れにすることも簡単だ。
 だが此処には男性も多い。
 こんな時は、自分の容姿が邪魔な気持ちになる事もある。見た目だけで俺を判断する人が、女性が多いと、本当の俺を知って受け入れてくれるのかがわからなくなる。


 彼女の仕事の邪魔をしたくない。
 俺のせいで、彼女が愛するディスプレーという素晴らしい仕事に、邪魔や影を落とす事はしたくなかった。
 
 蓮の心に一番に浮かんだのはキョーコに迷惑をかける事だけは避けたかった。
 キョーコの仕事振りは、ほんの少し近付くだけでわかってきた。共に4ヶ月、仕事をしてきた仲間が若くともいい仕事をする仲間として認め、信頼をしている事でもキョーコの真面目な性格もわかる。
 そして人として、素晴らしいディスプレーをするキョーコへの興味だけで、他の誰かに彼女の才能を消されないようにする事も蓮は怖れた。


「え……あの……」
 蓮は戸惑うキョーコと、そして周りにも説明するようにはっきりと言った。
「畑違いですが、デザイナーとしては共通項もありますし、今度キョーコさんの仕事を見に行くなら、俺の仕事場も見学してみてください」
「敦賀さんの……仕事場を?」
「お互いの仕事振りを見ておくのはお相子ですよ。共同作業をするなら、知っておけば後で役に立つと思うのですが、どうですか?」 


 あくまでも仕事の相棒として、お互いの仕事を知るという提案で蓮は続けた。


「今回の仕事でキョーコさんが出された資料は、服のデザイナーとしての俺でも分かりやすいように説明されている。畑違いの人間に説明する為の努力をするのは難しいものです。でも、キョーコさんは仕事をやり遂げる為にはそんな努力も惜しまないでいる。だからこそ、同じ仕事をするなら、お互いの仕事を知っておくといいと思ったんです。そう思いませんか?」


 蓮の言葉には、キョーコだけでなく他のメンバーも納得するしかなかった。
 多少の入れ替わりがある集まりだが、キョーコが指名でやってきた4ヶ月の間に、キョーコの説明の仕方がより分かりやすいモノになってきたと感じる者は多かった。それがキョーコの努力によってのものだと、説明の為に持ってくる資料がより具体的で図面で示されてくるようになった事だと、今更だが皆が気付いた。


「それは、私が皆さんにディスプレーの良さを、小さな空間ではありますが……夢を見てもらえる場所にしたくて説明しているだけです。私の夢の空間を飾る服や装飾品などを、より素敵にディスプレーする為の…季節を感じてもらう為には必要なモノを、具体的に説明することで皆さんに協力もして頂けますから…」


 ディスプレーデザイナーとしては当然のことだと、キョーコは言った。
 しかし、場所や職種なども多彩なディスプレーの仕事は、同じモノを要求されてもディスプレーヤー自身の個性によってはまた違うモノが出来上がる。
 キョーコは依頼主である宝田デパートのイメージを損ねる事無く、4ヶ月もの専属を続けてきたのだ。それも二十歳の新人ともいえるキョーコがその間に苦情を言われることもなく、その上に店としては売り上げが上がったと喜ばれ、自分の努力が実を結んできたからだと少しだけ自信を持つようになってきた。


「その努力を、当たり前と思えるのがプロとして素晴らしい事だと、俺は思います。だから、仕事を組むならキョーコさんの様に、努力を惜しまないプロと真正面から組んで良いものを作り上げたい。それにはお互いの個性も知った方がいいでしょう?」


 蓮の巧みな言葉は、ゆっくりとキョーコとの距離を縮めていく。
 でも、怯えさせないように互いの仕事の為という大儀を掲げて、キョーコを知る為の距離へと近付いていく。


 この会話を、蓮をよく知っている社が訊いていたならば、聞こえないように溜息を大きく吐いていただろう。



 ……蓮。お前はキョーコちゃんを欲しいと思っているんじゃないのか?
 お前のキョーコちゃんへの執着は、今まで見た事が無いほどだぞ……。
 仕事以上に……最上キョーコという女性を欲しいと、心の奥で思っているんじゃないのか…?



 そう言って、蓮の中の本心を分からせようとしただろう。
 そして、「お前はもう落ちてるぞ。キョーコちゃんへの恋に……」。蓮の行動が、巧みな言葉が、キョーコと離れたくない恋心だと、最後の真実を告げたかもしれない。



 そして、蓮を思う女性達の視線を気にしながら、キョーコは蓮の仕事場に顔を出すことになってしまった。



          《つづく》      15へ


蓮様、魔術のように言葉巧み?(^▽^;) 

やっぱり遊び人(プレーボーイ)確定wハート☆


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