君のままで…


「最上さん。お風呂出たから君も…」
 蓮がリビングに居たはずのキョーコを探してソファーを見た。
『先輩より先にお風呂を頂くなんて、出来ません!』
 そう言って、ソファーに腰掛けてTVを見ていたはず。
 時計は一時を回っていた。
 しかし、見えるはずの人影はなく、不思議に思ってソファーに近付くと、スースーと寝息が聞こえた。
「まさか?」
 蓮が声に出してソファーを覗き込むように見ると、キョーコが絨毯に腰を落としてソファーに凭れて寝ていた。
「全く君は…。そこまで頑張るのかな、昔から…」
 小さかった彼女も、母の期待に添えようと勉強を頑張っていた。
 今夜はいつものごとく俺を頼り、新しい役作りについて納得できるヒントが欲しいと仕事場の前で待っていた。
「ちょうどいいから、キョーコちゃんさ、蓮の夕食お願いできる?」
 社さんはそんな言葉で、最上さんを巧みに俺と一緒にマンションへと帰宅させた。
 そして有り合わせの物とは思えない料理で二人で食事をとると、彼女の出してきた台本から質疑応答のような形で役の性格を浮き彫りにしていく。
 ここで彼女は、「あっ、そうなんだ…」そう言ったかと思うと、台本をめくりながら役に入り込み、「憑いた」状態になった。
 もう俺の手はいらないと…、彼女の様子を伺った。
「始めから通して読んでみる?」
 彼女が大きく頷いて、俺が相手役をしていくと彼女のセリフがさっきと変わる。役を飲み込んだ証拠。
 そして半ばまでくると、「いいよ。OKだ!」俺は彼女の役に引き込まれるようになって、十分と答えた。
「最上さんも、ここまで出来るなら…もう俺は必要ないよ。一人でだって役作りも出来るよ」
「いえ、そんなことはないです。さっき、一言一言答えていくうちに、分かったんです。敦賀さんに質問していただくと、役の一番大切な中心みたいなモノが…見えてくるんです」
「……そうは見えないけれど、最後の見えない大切なところが分かれば、その役を演じる核になるからね。ぶれない中心が…」
 先輩らしい言葉でアドバイスした。
「はい。いつもお忙しいのに、私なんかの練習にお付き合い頂いて、ありがとうございます」
 キョーコは蓮に、深々と頭を下げた。
 蓮としては、先輩の顔で、役者として彼女の役作りを手伝っている。しかしその一方で、自分を頼ってきてくれる、自分だけにこうやって見せてくれる姿も愛おしくて溜まらなかった。
 好きな彼女に、目標として尊敬される。それ自体はとても嬉しいことだ。
 だが……自分の想いが彼女に届いていないことは分かっている。
 それは勿論寂しくもあるが、彼女の中で目標とされる先輩で、芸能界という特殊な世界の中で、彼女には必要とされている存在であることは、心を許されている存在と受け止めることが出来る。
「本当は…君の中の心の全てを、埋めるほどの存在になりたいけれど、直ぐには無理だね……」
 キョーコは蓮に心を許しているが、それは『先輩』として……。その中に、『男』としてという項目はない。
 俺にまっすぐ向けられる思いは、『異性』として意味はない。
 何故なら、彼女は『恋をしない』という枷を作っているから、俺以外の男にも予防線を張って、どんな告白さえも流してしまう。
 俺としては余計な馬の骨を作るつもりのないことに、安心はしつつも俺もその一人だと思うと情けない…。
 俺自身、『大切な人は作らない』と言う枷をかけてもみた。でも、育ってしまった想いは、溢れて君を離せない。もう離す余裕なんてない……。
 そんな男の前で、君は寝てしまっているって気がつけない?
 いくら俺相手でも、一人暮らしの男の家で寝てしまうのは、無防備すぎると、気が付いてくれない…?
 まだ客室の、鍵のかかる場所ならわかる。でもここは、リビングという、誰でも入れる場所だ。
 あどけない寝顔……。
 近づいて……髪を撫でても起きないなんて、俺が襲っても文句は言えないよ…?
 ……勿論、そんな事はする気はないけれど…。君の身体だけ手に入れても、俺はバカなピエロを演じるだけだ。
 そっと…君を起こさないように抱き上げると、客室のベッドに君を下ろした。シーツを掛けてそっと頬に触れる。
 柔らかな肌が、ずっと触れていたくさせる……。
 そのまま…唇だけでも奪ってしまいたくなる。
 しかし、あの時のように頬にそっと落として離れた。
 ……君はこれから……ゆっくりとだけど大人の階段を上るだろう……。
 そして階段を上るごとに、綺麗に磨かれ、花は開き……、俺の近くになど居てくれるだろうか?
 それでも俺を『先輩』と言って、慕ってくれているだろうか?
 それともそれまでに、君の『恋をしない』と言う殻は破れてくれるのだろうか?
 誰かがその殻を破るのか?
 ……それとも俺が、破れるのか?
 そして……『先輩ではない男』として、見てくれる?
 役者としては、その迫力も、美しさも、人の目を引くようになった君……。
 俺と君は、俺達の関係は変わるのだろうか?
 でも君が……、俺を先輩として見上げてくれているのなら、優しく照らすあの月のように、君をずっと照らし続けるよ……。
 君が道に迷わないように、君を見つめ続ける月の光になって、そっと優しく見守ろう……。
 君が好きだから……。君を愛しているから……。
 君が同じ芸能界という場所で、俺と同じ遙かな高みを目指すなら、一緒に駈け上げって行きたい……。
 ……そして出来るなら……、いつかその目を俺に向けてくれないか?
 その時、君は……もう誰かに目を向けている?
 そうしたら…俺はどうするんだろう?
 ……もしそうだとしても、俺は…君を見続けるのかな?
 君を見守り続けるのだろうか……。

 
 君を、君のままで、いつまでも……。
 君を見守り続けるよ……。
 君を愛しているから、君が俺を頼ってくれるなら……。


 君のままで……。
 あの夏の日に出会った頃から、変わらぬ君を……。
 いつまでも愛するだろう…、大切な君を……。
 君のままで…。
 君のままを愛しているから……。

 


     《FIN》


以前にスマライブの時

「スマで、また書きます!」と言って何カ月?(^^;;

「そっと きゅっと」 ラブラブに続いて、やっと2本目です音譜

木村君のソロですが、

初めて聴いた時に「蓮だー!ラブラブ」と叫んでました!

蓮がキョーコちゃんを見守っている感じの曲です。恋の矢

切ないけど、優しい曲かな?

私の書いたのは、半分ヘタ蓮になってしまいましたが…(苦笑)



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