海賊王に君はなる | ☆こどもココロの天井裏☆ こころカフェゆるの木別館

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かつてここには扉はなくて
ただ海が広がっていた
そういう
この世界

その子は、私が教室に入るといつも真っ先に飛び出して迎えてくれる。
授業中で、ほかの子たちが静かに座っている時も。
転がりたいときは床に転がり、
外が見たいときには窓辺に走り、
笑いたいときは声を立てて笑い、
力いっぱい怒る。

お菓子作りの実習のときも、
ボランティアの実演が始まると
「おおーっ、うまそう!」
「早く作りてぇ~!」
とうずうずしている。

ようやく子どもたちが作る番がくると、
それはもう張り切って自分の分のカップをフィリングで埋めて、
焼きあがったお菓子にいざ、トッピング。
チューブに入った生クリームをグルグル回して載せるのが楽しくてたまらない様子。

ひとしきり材料を使い終わったところで、
その子が言った
「ねえ、生クリームもっとのせたい。もっとちょうだい!」
「あら、もうこのグループの分は全部使っちゃったのよ」
途端にその子の表情が険しくなる。
「だって、あっちのグループは二つ目のクリームをもらってるよ、ずるいよ!」
見れば隣のグループは「おかわり」のクリームをもらって、トッピングを始めている。

「わかった。まだあるかどうか冷蔵庫を見て来るね」
その子はフウッと息を吐いて、うなずいた。

「あったよ!はいどうぞ」
オマケの生クリームのチューブを差し出すと、
その子はクシャクシャの笑顔になって
チューブを高々と掲げると
「やったあ!!おーい、みんなで使おうぜ!!」
と声を上げた。

みんなで使おうぜ!

その子の中には、みんなが居る。

なんだか涙が出そうになった。

君はいつも一人で飛び出してくるけど、
一人きりじゃないんだね。

君の中には、みんなが居る。

きっときっと、
振り返ったらたくさんの仲間が
一緒に笑ってくれている日が来る。


君がずっと君でいられますように。