犬の話 | 「ザ☆夕方カレー」- 主宰のひとりごと

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創作ユニット「ザ☆夕方カレー」の公式ブログです

二日酔いでふらふらしながら仕事に行き、ふらふらの頭で会議をして、またさらにふらふらになって帰って来て、ふらふらのまま、犬の散歩に出掛けました。

定職を持たない若者よりも、私はふらふらしています。
恋多き海老蔵のようにふらふらしています。彼はもうふらふらしてないか。

私のふらふらなど、全く意に介さず犬は歩き続けます。

犬の散歩に出掛けると、いつも思い出す犬がいます。
彼の名前は「マル」。

もう10年以上前の夏の事、私の家にクリーム色の大きな雑種が迷い込みました。
嫁の勤め先の寮の門の前に鎮座し、ずっと中を覗いています。
本当に丸っこくて、豚みたいな犬です。
毛並みはよく、首輪をしています。
誰かが連れて来たか、どっかの放し飼いの犬かな?なんて部屋に入りました。

数時間後、もう一度門のところにいくと、その豚みたいな犬は数時間前と
同じ格好で座ってました。

なんか鼻を「くんくん」鳴らしてます。
どうやら、腹が減っているよう。
魚肉ソーセージをあげました。

う~ん、どうやら迷い犬のようです。
仕方ないので、一時うちで預かり飼い主を探す事にしました。
とりあえず、その丸い体型から「マル」と名付けました。

でかいです。かなりバクバク飯を食います。
私は放送作家になりたてで、仕事もなく嫁に食わせてもらってたので、
これ以上ただ飯を食らう奴がいるとやっていけません。
早く飼い主を見つけなければ。

幸い、私は一日中、鼻糞ほじっているような生活。
犬の飼い主探しに、没頭出来ました。

もしかすると、マルが家に帰るかもしれないと、マルを自由に歩かせました。
そして、行き交う人達にこの犬を見た事無いか?とたずねて歩きました。
しかし、マルを見た事があるという人も、マルの飼い主につながるような情報も得る事が
できませんでした。
だいたい、マルは犬にしては珍しく散歩が嫌いなようで、すぐに寮に帰って来てしまいます。

一週間経ちましたが、何の進展もありません。
毎日、町内を一周しては寮に帰って来るマル。
もう、私たちは、マルに情がうつってしまい、このまま飼い主見つからなくてもいいかぁ、なんて思ってました。

その夏の一番暑い日、私は、いつものようにマルと出掛けます。
しかし、その日のマルは違いました。いつもと違う道をただひたすら歩くのです。私は、マルについてきました。

2時間ほど歩きました。もうTシャツは汗でベチョベチョです。
疲れた~、もう引き返そうと思っていると、マルはいきなり座り込みました。
はぁはぁ、言っているので疲れたのかな?
思い、休憩にしました。一服し、再び歩こうとするとマルは微動だにしません。
このままだと、私とマルを西郷隆盛像に間違える人が出て来るかもしれないと思い、綱を引っ張りました。マルは一点を見つめ全く動きません。

マルの視線の先に目をやると、動物病院でした。
私は「まさかな~」なんて思いながら、動物病院に入っていき「この犬知りませんか?」と聴きました。すると、受付の人が「あら?シェリーちゃんじゃない!?」

シェリー?この豚みたいな犬が?

すぐに飼い主さんが連絡を受け病院にやって来ました。二週間ほど前に急に居なくなってしまったとの事。マルは10キロ近く、歩き私の家にやってきたのです。

私はマルが飼い主さんに連れられて歩いて行く姿を見送りました。
二、三度、私の方を振り返ると、もう振り返りませんでした。

私は、マルと歩いて来た道を一人淋しく帰りました。
家に帰り嫁に、いきさつを話すと嫁は、おいおい泣きました。
たった一週間だけど、一緒に生活したのだから、当然ですよね。

「いつでも会いに来てくれって言ってたから、また会えるよ」と
慰めました。

後日、マルの事を忘れられない私たちは、マルに会いに行きました。
あ~マルに会える。
私たちは、浮き浮きしてました。

教えられた住所に行くと、庭があります。門をくぐり庭に入ると犬小屋の前で
つながれているマルがいました。

私たちは「マル~!」と駆け寄りました。

感動の再会です。

マルは・・・



牙を剥いて吠えたよね。かむ気満々の形相です。
戦闘態勢です。

私たちは、背中を丸めて帰りました。

犬は、三日飼われたら一生忘れないって嘘だよね。
と勉強になりました。