以前、片頭痛とミトコンドリア その4 生活習慣病との関連のなかの「 ミトコンドリアがつくるエネルギーで人間の生命は維持されている」で以下のように述べました。
我々の体は、嫌気性(酸素が嫌い)代謝の生命体と、好気性(酸素が好き)代謝の生命体が融合してできているといわれています。
20億年ほど前までは、地球上に酸素はほとんどなかったそうです。しかし、光合成を行うシアノバクテリアの出現により、酸素が増えてきました。私たちの祖先であった嫌気性の生命体は、酸素が増えてきた地球環境を生き延びるために、好気性の生命体を合体させることに成功したということです。
生物の細胞の中には、必ずミトコンドリアが共生しています。このミトコンドリアこそ、私たちの祖先が取り込んだ好気性の生命体なのです。
人間は60兆個の細胞からなるといわれていますが、1つの細胞に、複数個のミトコンドリアが存在しています。
細胞分裂がさかんな細胞にはミトコンドリアが少なく、細胞分裂をしない、あるいは細胞分裂が少ない細胞にはミトコンドリアが多く存在しています。ミトコンドリアが少ない細胞の代表が精子です。ミトコンドリアの多い細胞の代表が卵子、心筋、脳などです。
解糖系とミトコンドリア系のところで、これまでも述べていますが、エネルギー(ATP)を得るには、解糖系とミトコンドリア系の2つの働きがあります。酸素を必要とせず、糖分(ブドウ糖)からエネルギーをつくるのが解糖系です。ミトコンドリア系は、糖分や脂肪などを原料にして解糖系の19倍の効率でエネルギーをつくりだします。このときに、酸素が必要となります。
生物は、食べて消化・分解した栄養(ブドウ糖など)と酸素を、血液中の赤血球に乗せて、60兆個の細胞に運んでいるといわれます。しかし実態は、細胞に共生しているミトコンドリアにブドウ糖と酸素を運んでいるわけです。この栄養と酸素から、ミトコンドリアがエネルギーをつくりだすわけです。
エネルギー(ATP)がなければ、生物は活動できません。ATPをいかにつくりだすか、しかも効率のよいミトコンドリア系からつくりだすかが、病気を防ぎ、若さを保つ秘訣になります。そのためには、ミトコンドリアが喜ぶ状態に体を保つ必要があります。
片頭痛は15億年前の因縁?
1996年に間中信也先生が開設されたネット上に「頭痛」の老舗ともいうべきHP「頭痛大学」があり、ここに、この当時から、以下のような記載があったことを忘れてはなりません。
ミトコンドリアは、細胞のエネルギーを産生する「発電所」のはたらきをしています。
それは約15億年前のことでした。当時酸素が嫌いなノンビリやの単細胞生物”A”がおりました。
当時増えつつあった酸素を利用してエネルギッシュな好気性生物”B”もいました。”A”が”B”に提案しました。
「Bさん僕と結婚しよう。僕のウチに住んでいいよ。そのかわり君のエネルギーを僕にわけて頂戴」。
プロポーズが成功して、”A”と”B”の同棲生活が始まったのでした。
片頭痛には、このミトコンドリアが関係しています。
片頭痛では、ミトコンドリアの”酸化燐酸化の障害”があり、これによる代謝の異常が、神経機能障害を引き起こし、それが”脳過敏”を強めて片頭痛発作を発現させます。
ミトコンドリアの代謝機能を是正すれば、片頭痛にならないということになります。
ミトコンドリアの働きを助ける物質にビタミンB2があります。実際ビタミンB2をとると片頭痛になりにくいのです。
とすれば、15億年前に細胞AとBが同棲しなければ、片頭痛という病気は生まれなかったかもしれません。
こういったことから、片頭痛は全身的な”ミトコンドリアの機能の低下することによって起きる頭痛”と考えられています。
こうしたことから、ミトコンドリアの起源について、もう少し詳しく述べます。
ミトコンドリアの起源
地球が誕生して初めての生物は、糖をエネルギーにして生きていく原核生物と言われるものでした。
しかし、糖の原料である有機物は自然界に限りがありましたので、やがて自分でエネルギーを作り出す手段が必要となりました。
これが、光合成により無機物である二酸化炭素と水からブドウ糖などの有機物を作り出す植物の誕生なのです。
植物の誕生によって、糖が生産されることになりましたが、一方で植物は酸素を発生させます。酸素は、我々人間にとっては必要で当たり前のものなのですが、酸素は原核生物にとっては、酸化によってボロボロになってしまう極めて脅威的な存在でしたので、これを乗り越えるための新たな進化が必要になりました。それがミトコンドリアの誕生なのです。
ミトコンドリアは、酸素を取り入れて、糖やたんぱく質や脂質などの有機物をエネルギーにすることができるようになりましたので、酸素を取り入れることができずにその脅威にさらされていた原核生物にとっては、ミトコンドリアと共存することが生き残って進化していく道になりました。これが真核生物と呼ばれる動物の誕生なのです。
地球上に初めて現れた生物、原核生物から真核生物、つまり細胞核をもつ生物に進化する過程で、ミトコンドリアの祖先を体内に取り込んだとされています。ミトコンドリアは細胞内で細菌のように見え、実際、昔真核細胞生物に入り込んだある種の細菌がその先祖であると考えられています。
ミトコンドリアの祖先であるその細菌は、現在のその機能と同じく、酸素を使ってエネルギーを作り出していました。この方法は、酸素を使わない場合に比べ、20倍近い効率でエネルギーを作り出すことが出来ます。その細菌(αプロテオ細菌とよばれている)を酸素をつかうことの出来ない真核細胞生物が細胞質の中に取り込み、共生をはじめたのです。
その細菌を取り込んだ真核細胞生物、つまり宿主細胞はその共生を始めた初期にそのミトコンドリアの先祖から、DNAの大部分を奪い、自らの核内DNAへと情報を移しかえたようです。そしてミトコンドリアがふたたび外へと出て、生きてゆくことの出来ないようにしました。
今ではミトコンドリアは細菌だった時代の1割程度のDNAしかもっていないようです。しかし、これが重要な働きをしています。
ミトコンドリアの起源としては、約20億年前にαープロテオバクテリア(根粒菌の仲間)の一種が古細菌の中に共生し、その後にミトコンドリアへと進化していったと考えられています。
αープロテオバクテリアは多様な能力を持ち、酸素や硝酸塩などを使ってグルコースからATPを作り出し、水素や二酸化炭素を放出します。太古の海に生息していた古細菌の中にαープロテオバクテリアが入り込んで共生した結果、宿主側の古細菌は、αープロテオバクテリアが放出する水素や二酸化炭素を利用してグルコースを産生するようになりました。
αープロテオバクテリアは、そのグルコースを使ってATPを産生したと考えられています。その後、地球上に酸素が豊富になると、αープロテオバクテリアは酸素を使ってATPを産生するようになり、古細菌は大量のエネルギーが活用できるようになりました。この間、αープロテオバクテリアのDNAが古細菌のDNA(後に核になる)に移動してミトコンドリアの原型が作られていったと考えられています。
真核生物を生んだミトコンドリア
以前は、細菌が徐々に進化して細胞核を形成するようになり、やがて真核生物が誕生したと考えられていました。
しかし、近年の研究では、真核生物の細胞核の形成にはミトコンドリアの祖先が大きく関わっていると推測されています。
最初は核膜を持たない古細菌にαープロテオバクテリアが共生していました。細胞内に共生した細菌は宿主の細胞へDNAを送り込み、必要とするタンパク質をつくらせることがあります。このような現象が古細菌とαープロテオバクテリア間で生じ、共生細菌のDNAが宿主の細胞のDNA内に移動し、やがて細胞核が形成されて今日の真核生物の原型ができたと考えられています。
すなわち、古細菌が複雑な機能を持つ真核生物へ大きく進化できたのは、ミトコンドリアの祖先からDNAの大幅な移動があったからと考えられています。
ミトコンドリアは、それまでの原核生物に比べて、極めて効率のよいエネルギー生産システムを持っています。
原核生物が糖から生み出すエネルギーの20倍弱(脂肪から生み出すエネルギーの場合はなんと70倍弱)のエネルギーを、酸素を活用することで生産することができるのです。
それでは、原核生物は全てミトコンドリアに取って代わられたのかというとそうではなく、今でも我々人間の身体の中で共存しているのです。
原核生物は、エネルギー効率は極めて悪い旧型のエンジンなのですが、エネルギー効率が極めて良い新型エンジンのミトコンドリアに比べて、糖をすぐにエネルギーにできる瞬発力と細胞分裂を繰り返すことができる再生性を有しています。これは細胞質のなかでエネルギーを産生しています。
一方、ミトコンドリアは糖などをすぐにエネルギーにすることはできませんが安定したエネルギー供給ができる持続性を有しているのです。
従って、今でも我々人間はこの二つのエンジンを使い分けているハイブリッド仕様になっていて、例えば、瞬発力を必要とする速筋や新陳代謝を繰り返す皮膚や内臓などの器官は原核生物である解糖系(無酸素で糖を分解してエネルギーにするので「解糖系」と言います)と呼ばれるエネルギーシステムが中心になっていて、一方、持続力を必要とする遅筋や休むことを許されない神経や脳や心臓などはミトコンドリア系(酸素を活用して糖などを分解してエネルギーにするので「酸化系」とも言います)のエネルギーシステムが中心になっているのです。
薬剤による影響
以上のように、ミトコンドリアは細胞内で細菌のように見え、実際、昔、真核細胞生物に入り込んだある種の細菌がその先祖であると考えられています。このように、ミトコンドリアは細菌的な性質を有していることから、他の細菌類と同じように抗生物質により殺傷される可能性が高いのです。細菌に近い生物であったミトコンドリアにも少なからずダメージを与えます。特に片頭痛の素因のある人は、ミトコンドリアの数がもともと少なく、またミトコンドリアの働きが悪いために、その影響を受けやすいのです。
こういったことから、意味のない風邪での抗生物質の服用には注意が必要です。
また、牛肉、豚肉、鶏肉など、大量生産される畜産食品や養殖魚には抗生物質を含むエサを用いて飼育されたものが多く、それらを通して抗生物質が摂取されることになりますので、これらの食品のとり過ぎには注意が必要です。
また、アスピリン(アセチルサルチル酸)は、肝臓で代謝されてサルチル酸という強い酸に分解されます。サルチル酸は、ミトコンドリアが代謝物を取り入れる小さな穴を破壊します。 その結果、ミトコンドリアはエネルギー代謝ができなくなり、最終的に死滅してしまいます。
頭痛薬や風邪薬の安易な服薬は、ミトコンドリアの働きをさらに悪くさせます。こういったことから、緊張型頭痛の状態で、アスピリンを含んだ鎮痛薬を頻繁に服用していますと、片頭痛への移行を早めることになります。片頭痛の段階での服用は、その鎮痛効果を悪くさせ、結果的に効かなくなります。
また、予防薬として使われる抗てんかん薬のデパケンにもミトコンドリア毒性があり、要注意です。長期間にわたる服用では、結局何をしているのか分からなくなります。専門医のなかには、小児の片頭痛にまでデパケンを処方される先生がいますが、このような時期から服用することは考えものです。
病気を治すために飲む薬(市販の鎮痛薬や病院で処方される薬剤などすべてです)これらのものは、つい最近まで、人類の体内に入ることはなかった物質なので、体は異物と理解してしまいます。
そして、異物を解毒しようと、ある酵素を出します。この酵素が働く過程で、活性酸素が発生してしまうのです。このため、過剰に服用した鎮痛薬は異物そのものであり、これを解毒するために過剰に活性酸素が発生することによって”ミトコンドリアを弱らせる”ことになります。
以上のように、長期間にわたる薬剤の服用は、その種類は問わず要注意ということです。
特に、私達が、日常的に感じる極く軽度の頭痛に対して、日常的にテレビのコマーシャルで「頭痛革命宣言」などと言ってあたかも”救世主”のように宣伝されるがために市販の鎮痛薬を安易に服用されますが、後天性ミトコンドリア病(これからの章で述べます)を作る根源になってきますので厳重な注意が必要になってきます。
これまでも、以下のような記事を掲載していました。
デパケンとミトコンドリア
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12283371687.html