ビギナーズラックという言葉がある。漢方にも当てはまると思う。知識や判断手段が増えると物事を複雑に考えて反ってうまくいかないケースがある。不妊症は複雑な因子がからみ合ったその最たるものと言えるかもしれない。複雑な病態に複雑な処方が奏功する事はもちろんあるが、複雑な病態に単純な処方が偉功を発揮することも多々ある。浅田宗伯の『雑病翼方』には清の名医陳年祖の言葉を引いて
「婦人肥えて不妊は四物湯去地黄加香附子・半夏・貝母に宜し。もし痩せて不妊の者は八珍湯(四物湯合四君子湯)に宜し」
との記載がある。個人的には体格を処方の判断基準にするのは好きではない。しかしうまくいかなかったら思い切ってシンプルに考えるのも大切な事だと思う。何より口訣は、多くの先哲の成功体験から編み出されたものだからである。