弁護側がテレビ番組を証拠として提出し,採用されたことにNHKが反発 | 弁護士吉成安友のブログ

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 「東京地裁で審理中のオウム真理教元幹部、平田信被告(48)の裁判員裁判で、弁護側がNHKの番組を証拠として無断提出し、採用されたことにNHKが反発している。」そうです。

テレビ映像の証拠採用 なぜNG…メディア側の主張とは(産経ニュース)

 弁護士が証拠として提出したのは,「弁護側の説明によると、証拠採用されたのは、神秘的なものに引かれる若者たちについてまとめた約10分のリポートで、昭和63年に放送された」ものだとのこと。

 NHK側は,「取材協力者は番組が裁判で使われるとは思っていない。放送以外の目的で使用されれば、取材協力者の信頼を損ないかねない」として,反発しているとのことです。

 これは,いわゆる博多駅事件などでも論点になったところ。

 この事件では,福岡地裁が,付審判請求事件の審理のために,テレビ局に事件当日に撮影したフィルムの提出を求めたというものです。

 テレビ局側が抗告し,高裁もこれを維持し,さらに最高裁に特別広告が行われたのですが,最高裁は,抗告を棄却しました。

 その中で,最高裁は

報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない

として,報道の自由が憲法21条の保障のもとにあるとするとともに,取材の自由も憲法21条の精神に照らし,十分に尊重に値するといっています。

 そして,

本件において、提出命令の対象とされたのは、すでに放映されたフイルムを含む放映のために準備された収材フイルムである。それは報道機関の取材活動の結果すでに得られたものであるから、その提出を命ずることは、右フイルムの取材活動そのものとは直接関係がない。もつとも、報道機関がその取材活動によつて得たフイルムは、報道機関が報道の目的に役立たせるためのものであつて、このような目的をもつて取材されたフイルムが、他の目的、すなわち、本件におけるように刑事裁判の証拠のために使用されるような場合には、報道機関の将来における取材活動の自由を妨げることになるおそれがないわけではない。

として,フィルムの提出が将来の取材活動の自由の妨げになるおそれがないわけではないともしています。

 裁判の証拠となりうるということであれば,取材に協力できないと考える人出てくるかもしれないといったところです。

 そうしながら,


しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。

本件では、まさに、公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである


とし,公正な刑事裁判の実現のためには,取材の自由がある程度制約されてもやむをえないとしています。

 ただ,一方で,

しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなけれぼならない

と,配慮も必要だとしています。

 このケースでは,その配慮について

本件提出命令を発した福岡地方裁判所は、本件フイルムにつき、一たん押収した後においても、時機に応じた仮還付などの措置により、報道機関のフイルム使用に支障をきたさないよう配慮すべき旨を表明している

などという点が上げられています。

 このように最高裁が,結論としては,提出命令を支持しながらも,かなり取材の自由にも配慮したような記載をしているのは,表現の自由が民主主義の根幹であり,報道の自由,取材の自由は国民の知る権利の保障の上でも重要だからと言えます。

 しかし,博多事件のフィルム提出は,放映された部分でないものを含んでいるものです。

 それに対し,今回弁護側が提出したものは,放送済みの番組の録画にすぎない。

 これには,大きな違いがあると思います。

 一旦放映されれば,あらゆる人が知りうる状況におかれる。

 確かに,撮影したフィルム自体の提出という場面では,放映されない部分には,取材協力者のプライバシーに配慮したり,取材協力者の出して欲しくないという意向が反映されている部分がありうる。

 ただ,放映した部分は,テレビ局自身が誰もが知りうる状態にして問題ないと判断したわけです。

 警察官だって,検察官だって,裁判官だって,見る可能性があるわけです。

 それを裁判で使うなという理屈が通るのか?

 また,公に放映されることを了承して取材に協力しようとする者にとって,放映さえた部分が録画されて裁判に使われる可能性があることが,果たして了承するか否か判断する上で障害になるか?

 一方で,公正な裁判の実現も極めて重要なことです。

 少なくとも弁護士の立場からは,既に放映済みの番組を証拠として提出できない方が問題であるように思われます。


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