畠中恵 『おまけのこ』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 新潮文庫12月の新刊。『しゃばけ 』シリーズの第4作目ある。

 シリーズの新作を読むたびに、同じことを書いているような気がするのだけれど、第1作がとてもよくできたファンタジーであっただけに、それを超えるのは至難の技であるようだ。第1作が長編であったのに対し、第2作以降は連作短編となり、それも作品の味わいに影を落としているような気がする。長崎屋の病弱な若旦那が、回りに集まる妖(あやかし)とともに何かを解決するという形式が約束事となってしまって、いわゆる万物に神が宿るという敬虔さが失われてしまったように思うし、その敬虔さこそが、第1作を支えた重要なファクターではなかったかとも思うからだ。

 ここには5編の連作短編が収録され、表題作の『おまけのこ』は最後に置かれている。普段は役立たずのおまけのこと謗られる小さな妖の鳴家(やなり)が大冒険をする話だ。しかし、身の丈数寸という鳴家が、大粒の真珠が10個余も入ったビロードの袋を腰に結んで動き回るというのは、いくらファンタジーと言っても、無理があるような気がする。ちょっと辛いのではないだろうか?

 『ありんすこく』にしても、病気になった吉原の禿を郭の外へ救い出そうと、一太郎も加わって作戦を立てるのだけれど、手違いが発生して、最後は、妖である長崎屋手代の佐助と仁吉の超能力に頼ることになるわけで、そうであるならば、それまでのゴタゴタは何であったのかと思ってしまう。

 比較的楽しく読めたのは、『動く影』だろうか。障子に動く影女と、魔物の正体を映し出す雲外鏡とが重なって起きた不気味な現象を、まだ5歳であった頃の一太郎が解決してゆくというストーリーである。子供たちの世界が上手く捉えられていて、好感が持てた。

 最初に置かれている『こわい』も、妖怪の持つ怖さを伝えて面白かった。何と、妖怪仲間からも忌み嫌われているという弧者異(こわい)は、関わったものを必ず不幸に落とすというのだ。その弧者異が一太郎に近づくのだから、ハラハラさせられる。一太郎は彼の孤独に気付き、手を差し伸べようとするのだが、弧者異のほうで一太郎から離れてゆき、読者としては胸を撫で下ろすというわけだ。

 著者の畠中恵については、このシリーズ以外は何も知らないのだが、人気のシリーズとなってしまい、次々に作品を供給しなければならなくなって、もしかしたら、無理を重ねているのではないかと、余計な心配までしてしまった。

  2008年1月3日  読了