乳がんリスクとEBウイルス遅い感染 | 横山歯科医院

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[乳がんリスクとEBウイルス遅い感染]

(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部  浜島信之先生)
「論文紹介:乳がんリスクと遅れたEpstein-Barrウイルス初感染」


乳がん発生はわが国で増加傾向にあるものの、その発生率は米国白人の3分の
1程度でしかない。
日系米国人は、白人と同じまたはそれ以上の発生率をもつことを考えると、
生殖歴の違いや食事の違いのみでは説明つかない大きな原因が潜んでいる
可能性がある。


Fred Hutchinson Cancer Research CenterのDr. Yutaka Yasui, PhDらは
15-34歳の「ホジキンリンパ腫」発生率と「乳がん」発生率の強い関連を
見出した。
世界のがん登録資料を用いれば相関係数は0.74、米国内のがん登録に限れば
0.88で、一見関係がなさそうなこの2つの悪性新生物は、他のどの悪性新生物
発生率間よりも強い相関を持つ。
そこに何らかの共通の原因があるのではないかと考えるのは疫学の常道で
ある。


ホジキンリンパ腫の原因の1つは「Epstein-Barrウイルス(EBウイルス)」の
感染である。
ほとんどの日本人は小児期に気づかれずにEBウイルスに感染し、成人に近く
なってから、もしくは成人になってから感染すると激しい症状があらわれ
「伝染性単核症」と診断させる。

Yasuiらは既報告の乳がん症例対照研究データを掘り起こし、伝染性単核症の
発生年齢について解析した。
その結果、感染既往歴を持っていない女性に比べ、0~9歳に感染既往を
持った女性の乳がん相対危険度は0.55(95%信頼区間 0.05~6.17)、25歳
以上で感染既往があった女性は2.67 (1.04~6.89)であり、両者には5倍程度の
違いがあることを見出した。

彼らの仮説は以下の通りである。
 (1)EBウイルス感染が遅れると
 (2)宿主に強い反応を引き起こし
 (3)伝染性単核症患者のCTL機能に見られるような、
    またはホジキン病患者のEBウイルス抗体のプロファイルに見られる
    ような遷延した免疫刺激状態が生じる。
 (4)これはTNFαやIL-6のような前炎症性サイトカインの産生を促す。
 (5)これらサイトカインは脂肪組織のアロマターゼ活性を上昇させ、
    乳がんリスクを高める。


わが国では小児期にほとんどの人がEBウイルスに感染し、「ホジキン病」も
少なければ、「伝染性単核症」も少ない。
思春期や成人になってからの強い炎症を経験する女性が少ないから、
アロマターゼの活性化からのがれることができ、乳がんリスクが低い。

2世や3世の日系米国女性は米国白人と同じようにEBウイルス感染が遅れ、
米国白人と同様の高い乳がん発生率を持つことになる。

詳細な検討はもちろん必要ではあるが、この仮説はいくつかの現象をうまく
説明するのに成功している。
わが国での食生活は欧米化し、生殖歴も大差がなくなっている。
しかし、米国白人との間の乳がん発生率差はまだ大きい。
日系米国人が米国白人と同じ乳がん発生率を持つことから、生活習慣や生活
環境が乳がん発生に関与することは明らかであるが、どの要素が乳がん
リスクに関与するのか、探索する必要がある。

「遅れたEpstein-Barrウイルス初感染」説は魅力的な仮説の1つと言えよう。



http://www.aichi-med-u.ac.jp/jame/NL_Vol_3_No_3_%E8%AB%96%E6%96%87%E7%B4%B9%E4%BB%8B%EF%BC%9A%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A8%E9%81%85%E3%82%8C%E3%81%9FEpstein-Barr%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E5%88%9D%E6%84%9F%E6%9F%93.htm