レベルデザインの誤解 完結 | ヨコオタロウの日記
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解決策が分らないのではない。 問題が分っていないのだ。

/ ギルバート・ケイス・チェスタートン



じゃあ、今日は「レベルデザイナー養成型」の北米の弱点について。
昨日よりもさらに予想が入るから、内容がどんどん怪しくなります……
ポイントは

・FPS/TPS 型からの脱却。汎用化
・データの高精細化
・高機能化しすぎたレベルエディタ
・市場がコンソール主体に移行

北米のゲームは「FPS/TPS」に端を発している為、「ゲームのほとんどは3次元空間で人型の何かが攻撃する感じだよね?」という作りになっています。なので、その限界を超えるゲームには対応出来ません。たとえば iPhone や Wii Fit みたいなタイプのソフトではレベルデザイナー職種は機能しなくなると思います。

またモデルやヒットの高精細化し、それに伴いレベルエディタも高機能化。当初持っていた「学習(改造)の容易さ」を失いつつあります。ゲームの主体もPCではなくコンソールに移行する中で、初心者がとりつくキッカケも無くしていっています。

ツールをザッと見た雑感ですが、今のレベルエディタ(を含むゲームエディタ全般)は市販のCGソフト並の複雑さになっているように見えます。学生が「それだったら、CGソフト覚えるよ」というレベルになっているくらいに。



あと北米の市場の先行きも不安です。
今の市場が日本のファミコン熱狂期に近い構造だとすると、数年後には「落ち着いた」市場になる可能性が考えられます。レベルエディタを要求されるようなハイエンドゲームはマニア化し、携帯やDS(に相当するデバイス)でちょっと遊ぶようなゲームを大衆が選ぶ世界。つまり、今の日本のような世界になる可能性。

もちろん、ハリウッドのように特定の構造の大作を延々と消費する社会になる可能性もありますが。
どっちも想像なんで、ハズレてもご勘弁を。



という感じで、北米型の開発にはイイところも悪いトコロもあります。
この話の発端になった「日本の開発にもスクリプトを」という単純な意見には同意出来ない、じゃあどうするんだ?という点について。

まず、北米型を真似るならスクリプトだけではなく、プランナーとかスクリプターとかの日本型職域を解体して北米のワークフローを導入しないと意味がない。そこには大きな痛みが伴うでしょうし、そもそも追従しているだけなので「勝てる」という戦略ではない。日本型職域は破壊してもOKだと思いますが、コストに見合ったリターンが約束されていない。

じゃあ今の業態を維持しつつ、レベルデザイナー型開発の効果の及ばない「脳トレ」や「Wii fit」みたいなゲームを生産していくのか?というのも消極的に思えます。せっかくだから、北米型のイイトコロは吸収してしまいたい。



という事で、一個考えてみます。

日本にスクリプト文化は存在します。ただ、レベルエディターに相当するツールと職域が無い。無いというか、プロジェクト事に専用ツールを作っているような状態で、非効率的この上ない。

かといって、日本では大規模・汎用的なミドルウェアを作る事が何故か出来ていません。
これはCGツールも同じ話です。日本製のCGツールをメインにしているスタジオも聞いたことがありません。

まずは、そんな日本の死にかけ(失礼)ツールメーカーを集めます。
あとゲーム系専門学校も。気が向いたらゲーム会社も。

その場では「配置」「トラップ」「イベント」「地形エディット」「カメラ」なんかの、データフォーマットを策定します。あくまでフォーマットだけです。しかももの凄く簡単な内容で誰でもイジれるような形で。しかも、それらを統合する環境はなく、相互に参照出来るようなフォーマットにします。
もちろんこんなフォーマット、プロの皆さんは使いません。素人さん向けのフォーマットです。

でもいいんです。どうせゲーム会社のツールやフォーマットは外に出てきませんから。
専門学校の学生さんは、それらのフォーマットを使ってゲームを作ります。ツールはソフトハウスが作るんですが、共同開発している多くの専門学校が買うので一応ペイ出来ます。

さて、ゲーム会社もそのフォーマットを使ってゲームを作ってOKです。
え?使えない?いや、それでゲームを作るわけじゃなく、改造出来る形のデータを組み込む訳です。コンソールも画像やマップデータをアクセス出来る領域に配置し、改造コンテストを可能にすると。

そっから先のシナリオは……もういいや。なんとなく想像してください。



ということで「北米が各社で競い合って硬直化している部分を、日本はみんなで分担してしまおう」という戦略を書いてみました。このやりかたで上手く行くかどうかなんて判らない、というかもっと頭の良い専門の人達でちゃんと考えてみてもらいたい感じで。

とにかく、GDC で見た北米のシステムを手当たり次第に導入すればいいってもんじゃねーよ!という日記でした。
グッバイ。