新聞小説「春に散る」 (8)沢木 耕太郎 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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作:沢木 耕太郎 挿絵:中田春彌 12/16(252)~1/15(281)

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感想
白い家にかつての四人が集結するまでの経緯。

40年前の絆がゆっくりと復元されて行く姿は、同窓会の時に味わうそれと似た様なものかも知れない。
気になりながらも切り捨てた子猫。

佳菜子が持ち込み、他のメンバーも「飼おう」と決める。
野性に期待して残して来た広岡の気持ちも判るし、微妙なところか。みんな「いいひと」やねぇ・・・・まあいいけど。

 

あらすじ

帰還 1~30
梅雨の晴れ間、刑務所から出所する藤原を待つ広岡。

出所日だけは知っていたが、直接来るかどうかは判らなかった。
午後になって扉をノックする音と共に「仁!いるか!」との声。
新しい家の事を聞く藤原。鍵をもらうために進藤不動産へ二人で向かう。応対した進藤を見て、幼い頃の彼を思い出す藤原。
そんなところへ外出から帰って来た佳菜子。

鍵を渡され、タクシーで行こうとする二人に、車で送るという佳菜子。
藤原は「その前に」と言って通りの精肉店から揚げ立てのコロッケを買って来た。刑務所では食べられなかったもの。
車中で、食べてもいいぞと言う広岡に、ビールと一緒に食べたい、と返す藤原。
車は走り出し、車中で「佳菜ちゃん」と進藤から聞いた名前で気さくに声を掛ける藤原。

当の広岡は佳菜子と話す時、苗字さえも呼んだことがなかった。
40年の間に激変した多摩川沿いの風景に絶句する藤原。

 

白い家に着き部屋に入った時、その長いテーブルを見て感嘆の声を上げる藤原。一通り一階の様子を確認した後、広岡がビールを飲もうと誘った。車の佳菜子はミネラル・ウォーターで。
質素な祝宴が一段落し、広岡が部屋の説明をすると、藤原は思った通り二階東側の広い洋室を自分の部屋に選んだ。
この家に二人ではもったいないと言う藤原に、佐瀬が来る事になっていると言う広岡。

その時、藤原が星の事を思い浮かべているのを察した広岡。
一緒に暮らすなどまっぴらだ、との話を広岡がすると、それは本心かな、と返す藤原。

広岡が合宿所を出た時、一番寂しがったのが星だったと言う。

 

翌日、アパートからの引っ越しの手筈を整え、運送屋に電話をする広岡。先日佳菜子が連れて来た次の借り手の若者に、主要な家電品を譲る事にしていたので、引っ越しに持って行くものはほとんどなかった。
運送屋は荷物の量を聞いて、今日の午後にでも行けると言った。
部屋の片づけを終えたが、ベランダの猫が少し心残りだった。

飼っていたわけではないが、自分が居なくなったら主要な食糧と住み家を失う。だが白い家に連れて行くわけにはいかない。

ベランダの箱に猫は居なかった。
運送屋が来て、少ない荷物をトラックに積み込み、広岡は郵便受けに鍵を投げ込んだ。

 

白い家に着き、少ない荷物はほとんど一瞬で運び入れが終わってしまった。藤原が過ごした第一夜は快適なものだったらしい。
二人で買い出しに行く道すがら、家での暮らし方について聞く藤原に、部屋代と光熱費は出すから、払える分だけ食費を入れてくれればいいと話す広岡。

 

買い物を終わり家に着いた夕方、家の前で鳴るクラクション。

外へ見に行った藤原。しばらくして大きな怒鳴り声。
佐瀬と星が来ていると聞き、驚いて外に出る広岡。

佐瀬の旧い軽トラックで山形からやって来たのだ。
佐瀬は来る途中、線香を上げに星の家に立ち寄ったが、あの部屋に居てもすることはない、と無理に引っ張って来たのだと言う。
二階の部屋を星に選ばせ、最後に自分の部屋を決めた佐瀬。

一段落して四人で乾杯。星が40年経っても変わらない、と言った言葉に「そうか!」と気付く広岡。

合宿所でテーブルに座っていた時の配置がそのまま一緒だった。
広岡は買っておいた刺身を出したが、四人では酒のつまみにしかならない。広岡がカレーを作ろうと提案。

合宿所の頃、通いの女性には週一の定休日があり、いつしかその日に広岡がカレーを作る決まりになっていた。
星に、米を炊いてくれる様に頼む広岡。気軽に立ち上がる星。

昔は最も炊事を嫌がっていたが。
カレー作りの作業を見ていた星に、サラダのドレッシング作りを頼む広岡。簡単な指示で手際良く作業を進める星。聞けば、奥さんの料理作りをいつも見ていて、手順はつかんでいるという。

玄関のインターホンのチャイムが鳴る。佳菜子だった。

佳菜子は借りたキャリーケージに、あの子猫を入れて持って来たのだ。広岡の居たアパートの片付けに行ったら、ベランダのダンボール箱で鳴いていたのだと言う。
猫のいきさつを話す広岡。飼っていたわけではないが、餌を与えていた以上は責任があると非難する佐瀬。
佐瀬の家にも野良猫が住み着いていた事があり、世話は俺がやると申し出た。
広岡の家にあった段ボール箱に住まわせる事で、飼うことが暗黙のうちに決まり、名前をつける話に移っていった。

佐瀬が「チャンプ」はどうだろう、と提案。2年前に死んだその野良猫に付けていた名前。

藤原の断定で、チャンプと命名された猫。
作りかけのカレーに戻ろうと、キッチンに向かう広岡に続く星に向かって藤原が「キッドもここで暮らせ」と声をかける。

最初からそのつもりだと引き継ぐ広岡。

翌朝、星の家に荷物を取りにトラックで向かった佐瀬と星。

持って来るものは妻の遺影と遺骨だけだと言う。
トラックを見送る時、胸騒ぎのようなものを覚える広岡。

何かが始まるような、何かが終わるような。