「ハーモニー」 伊藤計劃 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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ざっくりあらすじ

2019年に発生した世界規模の暴動と混沌。各地で核爆弾が使用され、何億もの犠牲が出た「大災禍」。その教訓から生府によりWatchMe(恒常的体内監視システム)を利用して全ての人類が監視下に置かれた。

ナノマシンを体内に組み込み常に健康状態を監視し、少しでも異常があれば各家庭に配備されたメディケアが、対応する薬物を即座に供給する。そんな社会が50年ほど続いている世界。

 

螺旋監察官の霧慧トァン。強制的に健康な生活を強いられる中で少女の頃、仲間2人と栄養摂取拒絶の自殺を試みた事があった。

指導者の御冷ミァハは死に、トァンと二階堂キアンは助かった。

 

若者の間で爆発的に増加する自殺。キアンもトァンの目の前で頚動脈を切って死んだ。その裏に父霧慧ヌァザの存在を感じて調べを進めるトァン。
死んだ筈のミァハは生きていた。そして多数の自殺者に関わっていた。


感想

虐殺器官」のその後が描かれる。世界各国で発生した紛争で壊滅的になった地球を立て直すために作り出されたシステム。

それはユートピアを目指すものだったが、実際にはディストピアでしかなかった。

脳の報酬系。あらゆる事象に報酬系が調和し、全ての選択に葛藤がなくなった時、人の意識は 消滅する。
言語は器官である、と言った「虐殺器官」に対応するキーワード。

 

人類は最終的にハーモニー・プログラムを起動させ、自殺や争いは消滅した。個の意識を消し去った、意識のない調和の取れた「ハーモニー」の世界。

 

「虐殺器官」と同様にグイグイ読み進め「させられて」しまった感じ。だから細かい設定の部分を読み飛ばしているので、ちょっと理解が足りないかも知れないが、これはこれで「良し」としよう。

 

最後の数行を再生。

完全な何かに人類が触れることができるとしたら。
おそらく、「進化」というその場しのぎの集積から出発した継ぎ接ぎの脊椎動物としては、これこそが望みうる最高に天国に近い状態なのだろう。社会と自己が完全に一致した存在への階梯を昇ることが。
いま人類は、とても幸福だ。  とても。  とても。

 

「階梯」という言葉は小松の「果しなき流れの果に」を思い出させる。
彼が「虚無回廊」の後を引き継いでくれたら良かったのに。