「損料屋喜八郎始末控え」山本一力 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

sonryou

 

貧しい者相手に鍋、釜、布団などを賃貸しする「損料屋」。本来なら現役を引退した年寄りがやる商売だが、喜八郎はそうではなかった。
戦乱もなく安泰した江戸の街。武家社会では米の支給により旗本、御家人の生活が成立しており、食料として残す以外の米を売却する事で現金収入を得る。その仲立をして金を貸すのが札差(ふださし)。まあ現代で言えばサラ金。
この札差を巡って様々なドラマが展開する。

 

年齢の割りに地味な商いをしている喜八郎。読み進むうちに、次第に判って来る事情と周辺の不穏な動き。その間合いがなかなか小気味良い。説明しすぎでもなく、ヲタク趣味で取り残されることもなく、事件の展開が楽しめる。
大きな括りで言えば経済小説。江戸の経済社会で起きた様々なトラブル、幕府の施策を巡って商人たちが暗躍する中で喜八郎が活躍する。
文体は非常に簡潔で、心情描写が少ないためややそっけない印象もあるが、却ってそれが物語に集中出来る事にもなっている。
江戸屋の女将「秀弥」との淡い感情のやりとりも好感が持てる。

 

この人、昭和23年生まれで、会社員を経て平成9年に作家デビュー。まだ数冊しか上梓していない。多分これはシリーズものになるだろうなぁ。
ワタシ的には「イチオシ」の時代作家です。