「砲撃のあとで」 三木 卓 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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ひとことで言えば、満州引揚者の姿を当時10歳だった少年の目線から描いたもの。本裏のあらすじで「ちょっとこれは…」と思ったが、出張で読み切れる分量という事で選定。
14編の短編からなるが、それぞれは登場人物同じで時系列も連続しており、長編小説として読んでほとんど差し支えない。ただし制作としては連続性を持っていないと思われ、細部では各章とのつながりで微妙な温度差がある。


原爆投下のニュースを大人たちの会話から聞き、その後の緊迫した引揚行動の準備、新聞社勤めだった父の頼りない行動。「大日本帝国」も「国境防衛軍」も単なる幻想であり、地位も権利も生命の保証も失い、現地住民の迫害を受けながら、凄惨なエピソードを重ねつつ引揚船にたどり着くまでのドラマが描かれている。


解説でも述べられているが、ここで秀逸なのが少年の視点から現実を眺めた時の「無邪気な残酷さ」。引揚集団から乗り遅れ「別にどこに居たって同じ」とあっさり諦めた揚句、伝染病で衰弱の末に死んだ父親。家計を助けるためにタバコ、家財道具などを兄と一緒に売り歩く少年。読んでいて「もう、あかん」と読み進むのを止めたいと思う時もあったが、結局最後まで行ってしまった。



特に反戦思想に固まっているわけではないが、生存に向かってポジティブに行動して行く少年達は、逆説的に励ましとなって微妙な充実感を与えてくれる。
作者は1935年生まれ。この主人公と同じ年齢、境遇で引揚を経験しており、ある意味では自伝的小説。