夜話611明治天皇と『同志の人々』
ことし初めての久留米市中央図書館。
『北一輝』等の作家松本健一著。このひと昔久留米で「高山彦九郎」をかたつたはず。
表紙写真は夜話393で取り上げたあの明治天皇の写真.。
早速借り出しバス待ち時間にパラパラ。
いきなり冒頭に「田中河内之介」の六文字が出てきて、まず驚いた。
半世紀ほどまえ、男子高校生を焚きつけて高校文化祭で演った山本有三の戯曲『同志の人々』の中心人物。
京都寺田屋事件で捕らわれ薩摩に送られる途中の船中で、親子ともに斬殺された事件を劇化した一幕もの。
男子高校生だけの制約のなかで演出して好評だった記憶がある。
松本は「若き明治天皇がもっとも慕つた人物」として「河内之介」を紹介している。
そこで例により昨日あさったばかりのO古書店にまた立ち寄り、複刻版の二百円の『同志の人々』を入手。
初版本のくすんだ黄色の表紙文字のそのまま。ソックりサンの本が懐かしく帰宅してすぐに読みあげた。
あのとき「河内之介」役だった高校生は近隣に年老いて、いまお宮の総代としてお元気。
明治天皇と「河内之介」の関係を松本は解きほぐしていた。
明治天皇の生母中山慶子の実家に十八年間「河内之介」は仕え、慶子の弟中山忠光の思想形成の指導的人物だつたという。
中山忠光は維新幕開けの行動派の公卿として活躍。のち暗殺される。
即位前の幼時期の明治天皇は河内之介におんぶされて京都市中をへめぐったという。
戯曲『同士の人々』では、同志討ちする悲劇の人物としてのみ理解していた若ボケぶりのおのれが哀しかった。
ただ一っわが意を得たのは、古書店の片隅の大型本のうらにひっそり息づいていた『同志の人々』を複刻版とはいえ格安二百円で入手したこと。
それに茫々半世紀まえの高校生たちの熱演ぶりを思いだしたこと。
さて此の本を持って近くに住む、宮総代になった、かっての高校生「田中河内之介」を訪ねてみよう。
そして松本健一さんに一こと。
表紙の『明治天皇』の写真(上)は、ドナルドキ―ンによれば貴説とはやや違い 明治四十四年十一月、拙の居住地八女岡山の大演習統監場所で撮られた写真とのこと。
ついでながら先輩画家青木繁もその年三月に死亡し、葬儀は、写真撮影場所から直線二百米近くの八女の母の里室岡で行われた。
十一月、大演習統監に明治天皇きたるという大騒ぎのなか、「ロマンの旗手」といわれた天才青木繁の葬儀はひっそりとさびしいものだったそうな。
貴著『畏るべき昭和天皇』につぐ名著と読ませていただいた。
お礼申し上げます。敬称略。