「ここは夢の中だよ」と友人が言った。「だから、君は僕の名前も知らないだろう?どうかな?思い出せるかな?いや。思い出せるわけがないよね。そもそも僕に名前はない。君は僕を友人と思っているようだが、僕は君が夢から醒めると消える存在だ。ほら。この手を掴めるかな?どうだ?掴めないだろう?ここは夢の中だよ」
友人に言われるままに手を掴もうと試みたが、そちらに腕を伸ばしても私の指先は何にも触れなかった。それで、私は自分が本当に夢を見ているらしいと認めざるを得なくなった。目の前に立っている友人は実在しない人物であり、名前さえ与えられていないのだった。私は友人が気の毒になった。それで、手を掴もうと何度も試みた。相変わらず触れられなかったが、私は諦めずに腕を友人の方向に伸ばし続けていた。
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