猫を思い出す | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「猫はどんな動物だったかな?」と船長が問い掛けてきた。港を出航してから数ヶ月が経ち、陸地での記憶が曖昧になってきているのだと船長は話した。

 猫の外見上の特徴を説明しようと私は言葉を尽くしたのだが、船長はどうしても姿形をはっきりと思い出せないらしかった。そこで、私は猫の絵を描いて示そうと考えた。頭の中に数え切れない程の猫の姿が残っているので私はそれらを参照しながら描いていったのだが、出来上がった絵は犬や馬のように見えた。

 自分の絵心のなさに落胆させられたので私は気分転換のつもりで猫の声真似をしてみた。すると、予想外に上手に甘ったるい声が出たので驚いた。それを聞いて船長は「猫だ。猫だ」と大声で言いながら喜色満面の笑みを浮かべた。

 そして、私達は競うようにして猫の声真似を繰り返した。船室に猫の声が響いた。どんどんと上達していくようで愉快だった。

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