夜に浮かぶ船 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 過去の一時期、私は睡眠時間が極端に短くなっていた。寝床で横になったまま目を閉じていると気持ちが果てしなく落ち込んでくるので自宅には滅多に帰らなくなっていた。夜になるとよく街を徘徊していた。

 その夜は何本も電車を乗り継ぎ、適当に道を歩いている間に海岸に辿り着いた。港の岸壁に立っていると潮風が涼しくて心地良かった。波の音が聞こえたが、海面は暗くて何も見えなかった。夜釣りをしているらしい人々がいたが、私は彼等の方には近寄らなかった。

 停泊している大型船舶の方へと歩いていき、長椅子を見つけたので私はそこに腰掛けた。かなり足がくたびれていた。船は白い巨体が陸地からの光を受けてぼんやりと暗闇に浮かんでいるように見えていた。私は瞬きの合間にも船が眼前から消え失せるかもしれないという予感を覚えていた。

 久々に一つの景色を眺めたまま落ち着いた気分で長い時間を過ごせた。私はいつの間にか目を閉じ、座ったままの姿勢で朝まで眠り込んでいた。

 鳥の鳴き声で目が醒めると船は陽光を受けて堂々と巨大建築物のように眼前に聳えていた。私は船体の雄大な存在感に圧倒され、急に胸中がそわそわとして落ち着かなくなったので追い立てられるような気分で港を後にした。

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