繁華街で偶然、猫人間と出会う。彼は私の存在を往来の中に見つけると即座に頭を軽く下げて挨拶してくる。まるっきり人間であるような所作である。
そのまま道端で言葉を交わすが、彼は恐縮したような態度で酒場で起こした先日の失態をしきりに詫びてくる。その当日にもしつこいと感じられる程に謝られたので私はもう咎めるつもりなど一切なかったのだが、彼の方ではまだ引け目を感じているらしい。
彼の態度を観察しながら、猫の世界は礼儀や上下関係が厳しくて窮屈なのだろうか、と私は想像する。だとすると、あまり猫の世界の住人とも深く交わっていきたくないような気がする。ましてや猫人間などという中途半端な立場には絶対に身を置きたくないと思う。
猫人間と別れの言葉を交わした後、私は気疲れを覚える。繁華街を歩きながら自分の応対に落ち度がなかったかと顧みる。なんとなく違和感を覚えている。何かが間違えていたような気がしているが、かといって明白な失態は思い当たらない。意識内に残留している猫人間の卑屈な姿に影響されて私まで調子が狂っているらしい。
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目次(超短編小説)