猫人間と呑む | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 居酒屋で猫人間と酒を呑み交わしている。彼は肉食獣なので野菜などには一切箸を付けずに肉ばかりを頬張っている。大食漢である。私はその豪快な食欲に感心させられている。元々は細い体型だったが、食事をしている内に腹部が明らかに膨張してきている。見事な太鼓腹である。

 猫人間は食事の合間にちろちろと舌先で舐めるように酒を呑んでいるが、そちらはなかなか減らない。顔の表面がびっしりと体毛で覆われているので酔いの度合いが傍目にはわかりにくい。

 しかし、しっかりと酔っ払っていたようで、彼はふとした拍子に椅子から転落し、受け身を取り損ねて脇腹を床に直撃させる。同時にテーブルまで倒して皿が何枚か割れたので店内の注目を一身に浴びる。そして、私まで猫人間と共に店員に謝罪する羽目になる。仲間が仕出かした失敗なので肩身が狭い。

 「本当に申し訳ない」

 猫人間は腰を屈めながら何度も店員に謝っている。しかし、どうやら眠気に襲われているらしく、瞼が重たそうな表情で立ったまま上半身がふらふらと揺れている。既に意識は微睡んでいるのかもしれない。その様子が危なっかしいので私は彼を椅子に座らせる。すると、すぐに体を丸めて寝息を立て始める。その姿はまったく猫そのものであり、人間らしさが完全に消え失せている。


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