頭穴馬 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 頭部に大きな空洞が開いている馬が夜道に出没するという噂を耳にしたので私はその穴を覗いてみたくなった。それで、毎晩のように懐中電灯を片手に持って村中の道を見回っていたのだが、なかなか目当ての馬とは遭遇しなかった。ただ、何度か嗎を耳にしていたので私は諦めずに夜道を歩いていた。

 そして、月も星も出ていない闇夜の晩にようやく自分の方へと近付いてくる蹄の足音を聞いた。馬を驚かせてはいけないと思い、私は咄嗟に懐中電灯の光線を伏せた。すると、足音が徐々に大きくなり、馬の荒々しい息遣いが聞こえてきた。

 しかし、足音はすぐに聞こえなくなった。馬は懐中電灯の光が届かない闇の中で立ち止まった様子だった。私を警戒しているのかもしれなかった。

 目を凝らしたが、馬の影さえ見えなかった。このまま闇と退治していても馬の頭に開いた穴を覗くという目的は達せられないと思い、私は意を決して懐中電灯の光線を照射させる角度を上げた。すると、思ったよりも近い距離に馬が立っていたので心臓が止まるかと思う程に驚かされた。
 
 その馬の頭部には噂通り大きな空洞が開いていた。目も鼻も脳もない様子だった。しかし、それでも馬の肉体は四本足でしっかりと地面に立っていた。普通の馬よりも体格が大きかった。私はその不可思議な異形に驚かされて足が竦んだ。しかも、ないはずの目から注がれる鋭い視線を感じて気圧された。

 すっかり萎縮させられたので私は懐中電灯の光を消し、畑に下りて馬に道を譲った。すると、蹄の足音はゆっくりと通過し、徐々に小さくなって聞こえなくなった。

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