腕に開いた穴 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「これを見てください。腕に穴が開いているでしょう?」そう言って患者が片方の腕を差し出してきたので私は手首の辺りを軽く握って顔を寄せた。すると、前腕に大きめの注射針を刺されたような穴が開いていると気が付いた。深さはわからなかったが、貫通してはいないようだった。

 私は穴と患者の顔を交互に見比べながら尋ねた。「痛いのですか?」

 患者は照れたような笑いを浮かべて答えた。「子供の頃から開いていたのですから今さら痛くはないです。ただ、最近になって妻に見つかったのですが、彼女が気味悪がりましてね。それで、医者に行って診てもらえと言うわけですよ。だから、私としては異常がないと言ってもらいたいわけです」

 「深そうな穴ですね。検査をしてみましょうか。異常の有無はそれから判断しますよ」と私は言った。医師としての立場上、迂闊な発言は慎まなければならないのだった。

 すると、患者は顔面を紅潮させながら声を荒げた。「痛くないのですよ。それに、子供の頃から開いていた穴だ。今さら調べて異常が見つかったところで私は治療なんて望みませんよ。どうせ余計な金が掛かるのでしょう?私はただ妻を安心させたいだけなんだ。こんなに深刻な話になるのなら病院なんて来るんじゃなかった。帰らせてもらいますよ」

 患者は椅子から立ち上がった。急に怒鳴られたので驚いたが、無理に引き留めなければならない症状でもないように思われたので私は彼が診察室から出ていく様子を黙ったまま見送った。彼の腕に開いていた穴に興味が湧いてきたところだったので残念な気がした。診察料だけ受け取っておくようにと受付に連絡をした。

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