医師に先導されて階段を下りていくと地下一階に長い廊下があった。持病の症状が悪化した為に数日前から入院生活を強いられていたのだが、私はこの病院に地下があるとはその時まで知らなかった。
廊下に面している幾つかの部屋のドアが開放されたままになっていた。階段に最も近いドアの上には『最終工程』と書かれた看板が掲げられていた。部屋の中は学校の教室と同じような造りになっていて整然と並べられた椅子に私とほぼ同年代らしい子供達が数十人ばかり座っている様子が見えた。全員が教壇の方向を見つめながら口元に笑みを浮かべていた。
最初は熱心な授業風景かと思ったが、全員が表情を硬直させたまま視線さえ動かさないので私は薄気味が悪くなった。普通ならば私と医師の存在に気付くはずなのだが、誰もそのような素振りを見せなかった。しかも、彼等の顔はまったく同じようで見分けが着かなかった。まるで笑顔の仮面を被っているかのようだった。
「君はまだその部屋には入れないよ。治療には順序があるからね。この廊下のずっと奥の病室から始めなければいけない。さあ、行くよ」
医師に声を掛けられ、私は全身に鳥肌が立つように感じて逃げ出したくなった。階段を駆け上って病院から脱走するだけの体力が残されているだろうかと自分自身に問い掛けたが、自信がなかった。両足が小刻みに震えていた。
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