どんよりとした曇天の下を歩いていて道路の前方に病院の白い大きな建物が見えてきた。私は疲れを感じていたところだったので休息を取りたいと考えて敷地内に足を踏み入れた。
庭に長椅子が置かれていたのだが、今にも雨が降り出しそうな空模様だったので私は建物の中に入った。長い廊下が伸びていたが、人影はなかった。入口付近に受付があるはずだと考えていたのだが、ひょっとすると裏口から入ったのかもしれなかった。
とりあえず足をゆっくりと休められるような場所を探そうと思って私は廊下を歩いていった。天井の照明装置が点灯していなくて建物内は薄暗かった。壁には幾つものドアが並んでいたが、それらはすべて閉じられていた。扉の横側に名札が掲げられているので病室として使用されているらしいと推察した。
それにしても長い廊下だった。外側から見た時にも大きな建物であると感じたが、屋内に入って一段と広くなったかのようだった。窓の外ではまだ雨は降っていない様子だったが、相変わらず曇っていて景色が薄暗かった。
歩きながら私は病室の名札に書かれている氏名を一つずつ読んでいたのだが、知らない名前ばかりなので胸を撫で下ろしていた。ただ、ひょっとすると知人の名前を見つけるかもしれないと思われるので気が気でなかった。ドアの前を通り過ぎる度に緊張していたのだが、それでも私は名札をいちいち確認せずにはいられなかった。
目次(超短編小説)