生首に惚れている | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 ある女性の生首を何度も体験し直し、その度に私の意志を介入させて人生の内容を改変している。自由度の拡大は追加料金が必要になるし、結果の予測が困難なので気軽に利用できる機能ではないが、私はどうしても彼女に幸せを与えたいと望んでいるのである。

 充分に達成可能な目標であるはずなのだが、どういうわけか常に失敗している。彼女は性格も容姿も良いはずなのだが、特に結婚生活となると決まって上手くいかない。まるで不幸が宿命付けられているかのようである。

これまでに幾多の人生を味わってきたが、彼女のような聡明で気立てが良い女性は私自身も含めて滅多にいなかった。だからこそ私は彼女の運命が理不尽に感じられて仕方がない。彼女は幸せになるべき人間であると思う。

 仮に他の生首が彼女と同じような人生を歩んだとしても私は不幸だったとは判定しないかもしれない。或いは、不幸だったと判定したとしても人生をやり直そうとは考えないだろう。

 もしかすると私は彼女に惚れているのかもしれない。彼女の結婚相手に対して嫉妬しているのかもしれない。彼女の幸せを願う余りに夫となる男性の些細な欠点を見逃せずに不幸であると勝手に断定する傾向があるのかもしれない。

 そういえば、彼女の人生は私が改変を繰り返す度にむしろ不幸の度合いを増していっているような気がするが、それも高望みし過ぎているせいで相対的に評価が下がっていっているというだけの事だったのかもしれない。実際、彼女自身はどれだけ恵まれない境遇に置かれたとしても明朗な態度で日々を生きているのである。

 しかし、だからといって妥協をするつもりはない。諦めなければ彼女の人生を何度でも体験し直せるのである。彼女は幸せになるべき人間であると私は信じている。


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