映画を鑑賞していた。既に何度も観ている作品だった。話の筋どころか、一つずつの台詞さえ憶えていたので今さら大きな驚きは感じなかった。
俳優達は今回もまったく同じ動作と表情を見せていた。すべて記憶と寸分も違わなかった。まるで完成度が高い舞踏のように華麗で流れに澱みがなかった。私は意識がじわじわと幽玄な世界に入り込んでいくように感じていた。
明るい内容の作品ではなかった。終劇間際、一人の女優が堰を切ったかのように肩を震わせながら涙を流した。その場面を観て私は安堵を覚えた。また今回も彼女が泣いたと確認できた。いつもと変わらない感動が胸中に押し寄せた。
一連の舞踏が終結するのだと思うと途端に私は寂しくて堪らない心持ちになった。いつまでも彼等の所作を眺めていたかった。ずっと作品と対峙していたかった。そこで、また次の上映も鑑賞しなければならないと思い定めた。
目次(超短編小説)