朝日が眩しかったので顔をしかめながら駅へと歩いていた。随分と長い夢を見ていたようで、私は久方振りに現実世界に帰還したかのように感じていた。新鮮で清々しいような、急に歳を取ったかのような、一様ではない戸惑いが胸中にあった。
しかし、夢の内容は思い出せなかった。目覚めた直後には幾つかの断片的な光景が鮮明な記憶として頭の中に浮かんでいたのだが、それらも既にシャボン玉が弾けたかのように跡形もなく消えていた。
駅にはいつも通りの時刻に到着した。プラットホームには大勢の人々が並んで電車を待っていた。ふと、私は夢の中でも電車に乗っていたような気がした。記憶が蘇る糸口を摑めそうな気配を感じ取ったので反射的に胸が踊った。そして、さらなる手掛かりを求めて駅構内を見回した。プラットホーム上は混み合っていた。
そろそろ電車が到着しそうな気配だった。私は期待の高まりによって気持ちがざわめいてくるように感じた。夢との距離が急速に接近してきているという手応えを感じていた。
電車が到着したが、結局のところ、夢に関する記憶は何一つとして蘇らなかったので私はひどく頼りない気分になった。しかし、目の前でドアが開くと私は落胆を覚えたまま他の人々と共に電車に乗り込んだ。結局はいつもと変わらない平凡な朝だった。
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