特別背任罪(会社法960条、961条)の、「財産上の損害」は、損害を発生させたという積極的損害のほか、消極的損害を含み、しかも、現実に損害を発生させた場合でなくても、損害発生の危険を生じさせた場合も含む。
背任罪に該当する行為をすれば、結果的に会社に損害が生じなくても既遂になる。
特別背任罪の根拠は、取締役等の会社に対する忠実義務(会社法355条)違反に求めることができる。
取締役の特別背任罪に言う、自己または第三者の利益を図り、会社の利益を害する場合の典型が利益相反行為である。会社法上利益相反行為は、競業取引と、利益相反取引である。それゆえ、競業取引と、利益相反取引について、特別背任罪の成立が問われる場合が少なくない。これらの行為について、取締役会等の承認を受けておけば有効であるが、しかし、承認の有無に関わらず特別背任罪は成立する。
任務違背行為により会社に損害が生じたことを必要とする。任務違背行為があったが、財産上の損害が生じなかった場合は、特別背任罪の未遂となる(会社法962条)。
<以下、朝日新聞2018年12月21日付から引用>
東京地検特捜部は21日、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が、私的な損失を日産に付け替えて損害を与えたなどとして、ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)の疑いで再逮捕した。特捜部は認否を明らかにしていない。
ゴーン前会長は、有価証券報告書に計約91億円の役員報酬を過少記載したとして金融商品取引法違反の疑いで2回逮捕されている。これで3回目の逮捕となり、身柄の拘束はさらに長期化する見通しとなった。
特捜部によると、ゴーン前会長は、自分の資産管理会社と銀行の間で通貨のデリバティブ(金融派生商品)取引を契約していたが、多額の損失が発生。このため2008年10月、契約の権利を資産管理会社から日産に移し、約18億5千万円の評価損を負担する義務を日産に負わせた疑いがある。
この権利はその後、再び前会長の資産管理会社に戻された。ゴーン前会長は、その際に信用保証に尽力した関係者が経営する会社に対し、09年6月~12年3月の4回、日産の子会社から計1470万ドル(現在のレートで約16億3千万円)を入金させた疑いがある。
ゴーン前会長は当時、代表取締役兼最高経営責任者(CEO)で、特捜部は一連の行為は、自己の利益を図る目的で任務に背き、日産に財産上の損害を与えたと認定した。特別背任罪の時効は7年だが、海外にいる期間は時効が停止されるため、成立していない。
複数の関係者によると、ゴーン前会長の資産管理会社は、08年秋のリーマン・ショックによる急激な円高で多額の損失を抱えた。銀行側は前会長に追加担保を求めたが、前会長は損失を含む全ての権利を日産に移すことを提案し、日産に損失を肩代わりさせたという。当時、証券取引等監視委員会もこの取引を把握し、特別背任などにあたる可能性があると銀行側に指摘していた。
この問題は朝日新聞が11月27日付朝刊で報道。関係者によると、前会長は報道について「当局の指摘を受け、付け替えは実行していない。日産に損害は与えていない」と説明していた。
特捜部は11月19日、10~14年度の5年分の報酬をめぐる過少記載容疑でゴーン前会長らを逮捕した。12月10日、この5年分を起訴し、15~17年度の3年分の過少記載容疑で再逮捕した。東京地裁は20日、再逮捕容疑に対する検察側の勾留延長請求を却下。決定を不服とした検察側の準抗告も棄却したため、早期保釈の観測も出ていた。
日産はゴーン前会長の3回目の逮捕について、「事実関係を確認中。司法の問題なので、コメントする立場にない」としている。