1992年にその刑務所内で、実際に起こった111人もの大虐殺の事件を、「蜘蛛女のキス(1985ブラジル)」 でアカデミー作品賞・監督賞にノミネートされ、映画を通して、差別や平等の意義、人間と社会の関連性を真髄に捉え、徹底的に直視する作品に取り組み続けるヘクトール・バベンコの最新作。
「カランジル」は、ブラジル北部に位置するサンパウロにある刑務所。
定員4000人とされる当刑務所には、もはや7000人もの囚人が、すし詰め状態で収容されていた。
生活は入り乱れ、一触即発状態の反面、一定の自由が許されている所内では、囚人達によるサッカークラブがあったり、ゲイの結婚式などが行われるなど、ささやかながら少しの生きる希望も残されているようだった。が、もちろん、囚人達のいざこざから起こる犯罪や、争いも茶飯事だったのも確か。
伝染病にも鈍感で、とりわけエイズが氾濫していく中、予防のため1人の医師がやってくる。
医師ドラウツィオは治療を通して、犯罪者であれど、あくまで1人の人間として彼等に接する。
そうした中、個性的な彼等と次第に打ち解けあい、ドラウツィオは自分が医師である事に誇りを覚え、人との触れ合いの素晴らしさを感じるのだった。
物語は医師ドラウツィオの目線で点描されており、後半30分までは、彼等囚人の混乱と複雑さ、刑務所と外部の接触などの生活が描かれている。
しかし、ドラウツィオが数日刑務所を離れていた時に、ふとした“いざこざ”が囚人達の間で起こる。
それは、ほんのささいな出来事だったが、暴動にまで膨らみ、完全武装した警官が突入し、彼等はゲームのように銃弾を放ち、111人もの囚人が虐殺された。
このラスト30分の虐殺シーンが凄まじく、まさに血の海。どんなホラー映画よりも、恐ろしく、生臭く、身の毛がよだち、息を飲む。
人はどうして、『制圧』という選択をしてしまうのだろう。
偏見という色メガネで見てしまう世界では、絶対的な力を暴力に置き換えてしまうのだろうか。
私事ですが、先日ドイツに行って来て、ベルリンの壁を見てきました。
ナチや社会主義という、自由を与えられなかった彼等の苦しみと交錯するものがあり、非常に感慨深く、只々、呆然とするありさまでした。
前半を強調するかのような、あまりにも惨すぎる後半の虐殺シーンを通して、監督の強いメッセージと共に、私達は、どうにもならない感情を覚えるはずでしょう。
何事もなかったかのように、血を洗い流して行く背景が伺える“血と水の流れ”がいたたまれない。
実際に起こった事件というのはもちろん、1992年という月日にも非常に驚く。
ほんの少し前ではないか・・・・・・。
最近では、「シティ・オブ・ゴッド(2002ブラジル)」 がブラジル映画として、絶大な賞賛と賛歌が記憶に新しいところだが、ブラジル映画には、こうした映画が多い。
まだまだ、ブラジルのどこかでこうした事件は起きているような気がしてならない。
社会派犯罪ドラマとして、秀作と言える1本。
2002年にカランジルは、取り壊されている。
2003年カンヌ国際映画祭 パルムドールノミネート。
ちなみに「ラブ・アクチュアリー(2003イギリス)」 にも出演していた2枚目俳優、ロドリコ・サンドロが出演しているようですが、それどころではなかった・・・・・・・・。